平成11年度 研究成果

研究成果情報について

研究成果

1 Cloning and Functional Analysis of the Aspergillus oryzae Conidiation Regulator Gene brlA by Its Disruption and Misscheduled Expression

著者
O. Yamada, B. R. Lee, K. Gomi, and Y. Iimura
山田修、李秉魯、五味勝也、飯村穣
要約

麹菌Aspergillus oryzaeの分生子形成機構の解明を目的に、A. nidulansの分生子形成制御に関係するbrlA遺伝子を利用してA.oryzae brlA遺伝子のクローニングと機能解析を行った。PCRによりA. nidulans brlA遺伝子を増幅し、これをプローブとしてA. oryzaeのgenome libraryをスクリーニングした。得られたA.oryzae brlA遺伝子はA. nidulansとアミノ酸レベルで70%の相同性を示し、C末端にDNA結合に関与するZn-fingerドメインを有していた。また、プロモーター領域には、93%の相同性を示す43bpの配列を有していた。相同的組換えによりこの遺伝子を破壊した株は、完全に分生子形成能を失っていたことから、A.oryzae brlA遺伝子が分生子形成に不可欠であることが確認された。このbrlA遺伝子をα-amylaseプロモーター下流へ連結した強制発現用プラスミドを導入したA.oryzaeでは、通常分生子形成の見られない液体培養においても頂のう、フィアライド、分生子を備えた完全な分生子構造の形成が観察され、遺伝子発現が厳密に制御されていることが示唆された。

掲載雑誌
J. Biosci. Bioeng., 87, 424 (1999)

2 Production and Some Properties of Salt-Tolerant β-Xylosidases from a Shoyu Koji Mold, Aspergillus oryzae in Solid and Liquid Cultures

著者
T. Hashimoto, M. Morishita, K. Iwashita, H. Shimoi, Y. Nakata, Y. Tsuji, and K. Ito
橋本忠明、森下恵、岩下和裕、下飯仁、仲田佳幸、辻安信、伊藤清
要約

醤油麹菌Aspergillus oryzae HL15株の生産するキシロシダーゼについて、酵素を精製し性質を検討した。固体培養において生産する酵素は緩衝液で容易に抽出されたが、液体培養を行うと細胞壁に結合して存在した。結合型の酵素も細胞壁溶解酵素で処理すると遊離した。結合型酵素、遊離型酵素ともに高い耐塩性を示した。

掲載雑誌
J. Biosci. Bioeng., 88, 479 (1999)

3 The bglA Gene of Aspergillus kawachii Encodes Both Extracellular and Cell Wall-Bound β-Glucosidases

著者
K. Iwashita, T. Nagahara, H. Kimura, M. Takano, H. Shimoi, and K. Ito
岩下和裕、永原辰哉、木村仁、鷹野誠、下飯仁、伊藤清
要約

白麹菌Aspergillus kawachiiから細胞壁結合型β-グルコシダーゼCB-1の部分アミノ酸配列をもとに、本酵素をコードする遺伝子(bglA)をクローニングした。本遺伝子は、6つのイントロンを持ち、860残基のアミノ酸をコードしていた。本遺伝子のcDNAを出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで発現したところ、ほとんどの活性は細胞壁画分に確認された。また、A.kawachiiはβ-グルコシダーゼCB-1の他に、菌体外に遊離の状態で存在する2種類のβ-グルコシダーゼ(EX-1 EX-2)を生産する。これらの遊離型酵素は、β-グルコシダーゼCB-1と全く同じN末端アミノ酸配列を持っていたので、これらの酵素も同一遺伝子にコードされると考え遺伝子破壊を行った。その結果、bglA遺伝子破壊株では、2種類の遊離型酵素は検出されなかった。以上のことから、麹菌が生産する遊離型及び結合型酵素は、すべてbglA遺伝子によってコードされることが明らかとなった。

掲載雑誌
Appl. Environ. Microbiol., 65, 5546 (1999)

4 Phenetic Clustering of Grapes (Vitis sp.) by AFLP Analysis

著者
N. Goto-Yamamoto
後藤(山本)奈美
要約

ブドウのAFLP解析にあたり、制限酵素による不完全な消化またはスター活性に起因すると考えられるアーティファクトのバンドを排除するため、3段階の制限酵素濃度で消化を行った。AFLPバンドの濃度の違いは無視し、検出されたすべてのバンドを解析に用いた。Vitis vinifera 12品種、V. labrusca 2品種及び野生ブドウ2種(エビヅル及びヤマブドウ)を用い、4種類のプライマー・ペアを用いたAFLPバンドの非共有率を表型距離と見なし、UPGMAにより樹状図を作成した。この樹状図では、種及び生態系(prole)は明確に分離し、東洋系品種の高位のクラスターを除き、高いブートストラップ確率を示した。西洋系品種群のクラスターは、カベルネ・ソービニヨン,カベルネ・フランのクラスターと、ピノ・ノアール、ピノ・ブラン、シャルドネ及びリースリングのクラスターに分かれた。東洋系品種群のなかでは、日本の在来品種である甲州と甲州三尺がクラスターを作った。このように、この樹状図は形態及び地理的特性による分類とよく一致した。

掲載雑誌
Breeding Sci., 50, 53 (2000)

5 Grape Maturity and Light Exposure Affect Berry Methoxypyrazine Concentration

著者
K. Hashizume, and T. Samuta
橋爪克己、佐無田隆
要約

ワイン用ブドウ果実中のイソブチル及びイソプロピルメトキシピラジン(イソブチル及びイソプロピルMP)濃度に及ぼす果実の生育段階及び光照射の影響を調べた。8栽培品種の開花後30日の未熟果実中のMPは成熟果実と比較して高いレベルにあった。果房から切り放した未熟なカベルネ・ソービニヨン果実にガラス容器中で蛍光灯による光を照射したところMPレベルは上昇した。同じ光照射条件下で開花後50及び70日後の試料ではイソプロピルMPのレベルは低下した。飽和の塩化カルシウム(酵素活性を阻害すると推定される。)で処理した開花後30日後の果実中のMPレベルは暗処理では変化しなかったが光照射で指数的に減少した。これらの結果は、光が果実のMPの生成促進と光分解の相反する2つの影響をもっていることを示している。

掲載雑誌
Am. J. Enol. Vitic., 50, 194 (1999)

6 Structure of the Glucan-Binding Sugar Chain of Tip1p, a Cell Wall Protein of Saccharomyces cerevisiae

著者
T. Fujii, H. Shimoi, and Y. Iimura
藤井力、下飯仁、飯村穣
要約

Tip1pはSaccharomyces cerevisiaeの主要な細胞壁タンパクであり、GPIアンカータンパクとして合成されると考えられている。我々はTip1pタンパクを酵母細胞壁のグルカナーゼ抽出液から精製し、細胞壁との結合部分に含まれる糖鎖を解析した。1モルのTip1pにはグルカン由来の7.5モルのグルコースとGPIアンカー由来の1モルのエタノールアミンが含まれていた。同様にAchromobacter Protease Iで切断したC末端ペプチドには7.9モルのグルコースと1モルのエタノールアミンが含まれていた。その一方で、Tip1pにはGPIアンカーの構成成分であるグルコサミンが含まれていなかった。Tip1pのグルカン結合糖鎖をヒドラジン分解により遊離させ単離した。この糖鎖には、アミノ基を露出しているエタノールアミンと還元末端としてグルコースが含まれていたが、マンノースの還元末端は含まれてなかった。ホスフォジエステラーゼ処理により露出しているアミノ基が糖鎖から遊離するので、リン酸ジエステル結合はエタノールアミンとグルカンの間に存在すると思われる。これらの結果は、(1)Tip1pのグルカン結合糖鎖はGPI由来であること、(2)GPIアンカーはマンノース糖鎖の部分で切断され、その結果生じたマンノースの還元末端によりTip1pは細胞壁グルカンに結合していることを示唆している。

掲載雑誌
Biochim. Biophys. Acta, 1427, 133 (1999)

7 A Solid-State Culture System Using a Cellulose Carrier Containing Defined Medium as a Useful Tool for Investigating Characteristics of Koji Culture

著者
Y. Yamane, M. Yoshii, S. Mikami, H. Fukuda, and Y. Kizaki
山根雄一、吉井美華、三上重明、福田央、木崎康造
要約

セルロース担体と合成培地より成る固体基質を作成し、同基質を用いたカラムリアクターによる固体培養システムを設定することで、均一な培地組成のもとで、清酒麹と同様のAspergillus oryzaeの増殖条件の再現を試みた。固体基質の水分含量を50~90%の5段階に調整して培養を実施し、同基質上に増殖した菌糸の形態を電子顕微鏡にて観察したところ、低水分含量(63%以下)において清酒麹上の菌糸と同様の形態のそれを確認した。また水分含量の低下とともにグルコアミラーゼ生産量及びグルコアミラーゼ/α-アミラーゼ生産比(G/A比)が指数的に増加し、水分含量50%で清酒麹に匹敵した。また、G/A比と水分含量の間に指数的な負の相関関係を見出した。さらに水分含量の低下により、清酒麹特有のグルコアミラーゼ(glaB)の顕著な誘導が確認された。

掲載雑誌
J. Biosci. Bioeng., 89, 33 (2000)

8 実験室酵母からのフェルラ酸耐性株の取得

著者
我部政晴、小関卓也
要約

実験室酵母Saccharomyces cerevisiaeからフェルラ酸耐性株を取得し、その性質を調べた。細胞壁溶解性試験を行ったところ、耐性株はZymolyaseに対して非感受性であった。薬剤耐性試験ではシクロヘキシミドに対しては非感受性であり、セルレニンに対しては感受性であった。また、耐性株の細胞質膜の脂肪酸組成において、高級不飽和脂肪酸の比率が親株より高いという傾向が認められた。さらに、耐性株のフェルラ酸から4-ビニルグアヤコールへの変換能は、協会ワイン酵母W1株よりも強いことが示唆された。

掲載雑誌
醸協, 95, 65 (2000)

9 Cloning and Characterization of a Gene Complementing the Mutation of an Ethanol-Sensitive Mutant of Sake Yeast

著者
T. Inoue, H. Iefuji, T. Fujii, H. Soga, and K. Satoh
井上豊久、家藤治幸、藤井力、曽我浩、佐藤要
要約

清酒酵母Saccharomyces cerevisiae SY-32株からエタノール感受性変異株(es1~10)を単離取得した。これらの変異株は、親株であるSY-32株が生育できる7%エタノール存在下で増殖できなかった。SY-32株のゲノムDNAライブラリーよりes5株のエタノール感受性変異を相補する遺伝子としてERG6を取得した。ERG6遺伝子は、エルゴステロール生合成経路上の酵素S-adenosylmethionine:zymosterol C-methyltransferase(EC 2.1.1.41)をコードしていた。エルゴステロール含量を調べたところ、es5株はエルゴステロール合成能が著しく低下していた。また、ERG6遺伝子の破壊株も同様にエタノール感受性となった。これらの結果から、ERG6遺伝子はS.cerevisiaeのエタノール耐性において重要な役割をしていることが示唆された。

掲載雑誌
Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 229 (2000)

10 A New Transformation of Saccharomyces cerevisiae with Blasticidin S Deaminase Gene

著者
H. Fukuda, and Y. Kizaki
福田央、木崎康造
要約

実用酵母を宿主としてAspergillus terreusのblasticidin S deaminase遺伝子による形質転換系を確立した。この形質転換系を半数体及び2倍体の実験室酵母に適用したところ、半数体は自然耐性が多く形質転換株の選択が困難であったが、2倍体では容易に形質転換株を選択できた。また、選択培地としては、YPDプレートよりコーンペプチドをN源としたYNBプレートにblasticidin Sを添加した方が適していた。これらの結果から、blasticidin S耐性には劣性遺伝子が関与していること、酵母への形質転換系の適用には染色体の倍数性が関与していることが示唆された。

掲載雑誌
Biotechnol. Lett., 21, 969 (1999)

11 243年貯蔵酒の性状と成分について

著者
江村隆幸、岡崎直人、石川雄章
要約

243年前(宝暦6年、1756年)に造られた古酒が新潟県関川村の渡邉家で発見され、官能評価及び成分分析を行った結果、以下のことが明らかになり、当初詰められた酒は糖分と酸の多い現在の酒母に近い酒であったろうと推察した。

  1. 外観等の性状は、濃暗褐色で濁りはなく粘度が高く、強い酸味と甘味及び若干の苦味を有し、香りは強い老香様を呈していた。
  2. 現在の清酒に比較して酸度及びグルコース濃度が高く、pHが低く、また、酸度の割にアミノ酸度が低かった。
  3. 有機酸及びリン酸含量では、コハク酸及びクエン酸を除き測定した全ての成分が多かった。リン酸含量が多い理由として、当時の製法が玄米または低精白米を使用していたためと推察した。
  4. アミノ酸含量は、測定した20アミノ酸全てが現在の清酒に比較して少なく、特に塩基性アミノ酸及び含硫アミノ酸が少なかった。
  5. 酢酸エチル、酢酸イソアミル等の香気成分が同定された。
  6. アルコール濃度が約2%と低かったが、貯蔵開始時の容積の約35%が蒸発したためと推察した。
掲載雑誌
醸協, 94, 726 (1999)

12 Sake Brewing Characteristics and Multidrug Resisitance of Trichothecin-Resistant Yeast Mutants

著者
H. Fukuda, S. B. Park, Y. Kizaki, and K. Takahashi
福田央、朴 相培、木崎康造、高橋康次朗
要約

清酒酵母からタンパク質合成を阻害するトリコセシンに対する耐性株を分離した。これらの変異株は親株よりも高いアルコール生産能を有していた。また、同時に変異株は多剤薬剤耐性を示し、複数の有機化合物に対する耐性も有していた。変異株の高いエタノール生産能は有機化合物に対する耐性とエタノール耐性に深く関係していると推察された。

掲載雑誌
World J. Microbiol. Biotechnol., 15, 629(1999)

13 平成9酒造年度全国新酒鑑評会出品酒の分析について

著者
石川雄章、荒巻功、後藤(山本)奈美、福田央、高橋康次郎
要約

平成9酒造年度全国新酒鑑評会出品酒878点の分析及び調査結果について考察した。

掲載雑誌
醸研報, No171, 1 (1999)

14 第21回本格焼酎鑑評会について

著者
木崎康造、三上重明、増田達也、高橋康次郎
要約

第21回本格焼酎鑑評会出品酒245点について官能審査及び成分分析を行うとともに酒質の傾向を考察した。

掲載雑誌
醸研報, No171, 27 (1999)

15 ワイン酵母の見かけの亜硫酸馴用効果と亜硫酸結合物質

著者
後藤(山本)奈美、大沼寿洋、吉村正裕、高橋康次郎
要約

ワイン酵母の亜硫酸馴養の効果を、前培養した菌体を前培養液添加及び無添加の条件で植菌する条件で検討した。前培養菌体のみを添加した場合は、前培養液に亜硫酸が添加されているか否かに関わらず、生育最大亜硫酸濃度は同じであった。一方、菌体と5%または10%の前培養液を新しい培地に添加した場合は、前培養液無添加の場合よりも高い亜硫酸濃度で酵母が増殖した。前培養液と同濃度のアセトアルデヒド及びピルビン酸を新しい培地に添加した場合は、培養液を添加した培地とほぼ同濃度の亜硫酸を含む培地で生育した。従って、この見かけの馴養効果は、アセトアルデヒド、ピルビン酸及びα-ケトグルタル酸といったカルボニル化合物の亜硫酸結合作用によるものと推察された。

掲載雑誌
醸協, 94, 921 (1999)

16 第36回洋酒・果実酒鑑評会出品酒の分析値

著者
荒巻功、橋爪克己、岩田博、川口勉、石川雄章
要約

第36回洋酒・果実酒鑑評会出品酒336点について鑑評結果を報告するとともに、果実酒類及びウイスキー類について分析値を示した。

掲載雑誌
醸研報, No171, 13 (1999)