平成4年度 研究成果

研究成果情報について

研究成果

1 Molecular Structure of Rarobacter faecitabidus Protease I

著者
H. Shimoi, Y. Iimura, T. Obata, and M. Tadenuma
下飯仁、飯村穣、小幡孝之、蓼沼誠
要約

酵母溶解菌R.faecitabidusの生産するセリンプロテアーゼ遺伝子の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を基に、構造と機能との関係を考察した。525アミノ酸のORFはN末端にプレプロ配列、その後にエラスターゼ様のプロテアーゼドメイン、C末端の一部にOerskovia xanthineolyticaのβ-1,3-グルカナーゼやレクチンの一種リシンB鎖と相同性の高い配列を持ち、特にこのC末端を部位特異的に削除すると、この酵素のマンノース吸着能と酵母溶解能が欠落することから、酵母溶解活性に必須であることが示された。

掲載雑誌
J.Biol.Chem.,267,25189(1992)

2 High level expression of the synthetic human lysozyme gane in Aspergillus oryzae

著者
K. Tsuchiya, S. Tada, K. Gomi, K. Kitamoto, C. Kumagai, Y. Jigami, and G. Tamura
土屋幸三、多田節三、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、地神芳文、田村學造
要約

ヒトリゾチームをコードする合成DNAを麹菌α-アミラーゼ遺伝子(amyB)プロモーターの下流に連結した麹菌形質転換用プラスミドを作製し、A.oryzaeに導入した。この形質転換株はアミラーゼが誘導生産される条件下(デンプンやマルトースを含む培地)で培地中に活性のあるヒトリゾチームを分泌した。抗体を用いたウェスタン解析によりシグナル配列は正しく切断されていると推定された。また、ノーザン解析の結果、ヒトリゾチームのmRNAはデンプンによる発現制御を受けており、組み込まれたコピー数を反映して、その発現量はamyBよりも多量であった。

掲載雑誌
Appl.Microbiol.Biotechnol.,38,109(1992)

3 Transformation of the industrial strain of Aspergillus oryzae with the homologous amdS gene as a dominant selectable marker

著者
K. Gomi, K. Kitamoto, and C. Kumagai
五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子
要約

麹菌A.oryzaeのアセトアミダーゼ遺伝子(amdS)を優性マーカーとして利用した栄養要求性をもたない麹菌実用菌株の形質転換系を確立した。形質転換頻度はプラスミドDNA1μgあたり0.4~1個と低いものであったが、得られた形質転換体の染色体には非常に多コピーのプラスミドが組み込まれており、その形質も安定であった。更に、amdS遺伝子のプロモーターをマルトース等で強く発現が誘導されるα-アミラーゼ遺伝子(amyB)のプロモーターに置換することにより、形質転換頻度が上昇し形質転換体の取得が容易になった。また、この場合の形質転換体中の導入したプラスミドDNAのコピー数はそれほど高くなかった。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,74,389(1992)

4 清酒中に存在する抗酸化性物質

著者
太田剛雄、高下秀春、轟木康市、岩野君夫、大場俊輝
要約

清酒中の抗酸化活性を調べたところ、清酒中には原料米中よりも強い抗酸化活性が存在した。清酒中の抗酸化活性はAmberlite XAD-2に吸着され、50%メタノールにより溶出された。50%メタノールによって溶出される活性区分は分子量の異なるA、B、C、Dの4つのフラクションからなり、C、Dフラクションの主成分はそれぞれフェルラ酸およびチロゾ一ルであった。分子量の大きいAフラクションは0.5N Na0Hまたはジアスターゼ原末による加水分解でフェルラ酸を遊離し、フェルラ酸の配糖体エステルと推察された。

掲載雑誌
醸協、87,922(1992)

5 Functional elements of the promoter region of the Aspergillus oryzae glaA gene encoding glucoamylase

著者
Y. Hata, K. Kitamoto, K. Gomi, C. Kumagai, and G. Tamura
秦洋二、北本勝ひこ、五味勝也、熊谷知栄子、田村學造
要約

グルコアミラーゼをコードしているglaA遺伝子のプロモーターの機能領域について解析した。グルコアミラ一ゼcDNAをプローブとしたノーザン解析によりmRNAの転写はデンプンやマルトースにより誘導されるこどが示された。このプロモーター領域を大腸菌のβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子と連結し、麹菌A.oryzaeに導入した。得られた形質転換株はマルトースを含む培地での培養によりGUS活性を示した。A.oryzaeのα-アミラーゼ遺伝子(amyB)とA.nigerのグルコアミラーゼ遺伝子のプロモーター領域との比較から、これら3者に相同的な2ケ所のDNA配列(Region I、II)が見いだされた。これらは、炭素源による発現・誘導に関連した配列と推定された。

掲載雑誌
Curr.Genet.,22,85(1992)

6 Deletion analysis of the Taka-amylase A gene promoter using a homologous transformation system in Aspergillus oryzae

著者
K. Tsuchiya, S. Tada, K. Gomi, K. Kitamoto, C. Kumagai, and G. Tamura
土屋幸三、多田節三、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、田村學造
要約

タカアミラーゼA遺伝子のデンプンやマルトースによる誘導高発現に関与するプロモーター領域の同定を目的として、本遺伝子のプロモーターと大腸菌のβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子との融合遺伝子を作成し、プロモーターの5'-上流側から順次欠失させた変異遺伝子の発現を調べた。その際、相同的組換えによって麹菌A.oryzaeの染色体の特定なmet部位に導入プラスミドが挿入された形質転換体を選択してGUS活性の測定に供した。GUS活性は翻訳開始コドンから377bp上流まで失っても約70%程度の低下しか認められなかったのに対して、290bpまで失うと数%にまで低下していたことから、-377bpから-290bp上流までの約90bpの領域が高発現に必須であると考えられた。また、誘導能は233bp上流までを失ったときに認められ、-290bpから-233bpの領域は誘導に必須の領域を含んでいることが示唆された。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,56,1849(1992)

7 Purification and properties of acid stable xylanases from Aspergillus kawachii

著者
K. Ito, H. Ogasawara, T. Sugimoto, and T. Ishikawa
伊藤清、小笠原博信、杉本隆司、石川雄章
要約

焼酎白麹菌(Aspergillus kawachii IFO 4308)の培養液中に5種類のキシラナーゼの存在を認めた。この中から生産量の多い3つのキシラナーゼ(XynA、XynB、XynC)を電気泳動的に純枠となるまで精製しその性質を調べた。分子量はXynA、XynB、XynCの順にそれぞれ35、26、29kDaであり、等電点は6.7、4.4、3.5であった。アミノ酸組成及び他の性質も検討したが、これら3つのキシラナーゼはタンパク化学的な性質が大きく異なることがわかった。これらのキシラナーゼは全てpH3.0で失活しない耐酸性型のキシラナーゼであるが、特にXynCは至適pHが2.0でありpH1.0でも失活しない興味ある酸性キシラナーゼであった。これらのキシラナーゼはキシランからキシロースを含む種々のオリゴ糖を生成したが、主たる生成物はキシロビオースであった。またこれらのキシラナーゼの生産性は培地のpHによって影響を受け、XynAおよびXynBは中性付近で多く生産されたが、XynCは低pH条件下で生産量が多かった。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,56,547(1992)

8 Cloning and sequencing of the xynA gene encoding xylanase A of Aspergillus kawachii

著者
K. Ito, T. Ikemasu, and T. Ishikawa
伊藤清、池増徹、石川雄章
要約

白麹菌(Aspergillus kawachii IFO 4308)のキシラナーゼAをコードするcDNA及び染色体DNAをクローニングした。cDNAのクローニングは精製キシラナ一ゼAタンパク質に対する抗体を用いたイムノスクリーニングによった。本cDNAは327アミノ酸をコードする981べ一スからなるORFを有し、また染色体DNAは9個のイントロンにより分断されていた。本タンパク質のN末端はピログルタミン酸であり、25個のアミノ酸残基が分泌に当たってプロセッシングされていることがわかった。本cDNAにより形質転換された酵母はキシラナーゼを発現分泌した。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,56,906(1992)

9 Cloning and sequencing of the xynC gene encoding acid xylanase of Aspergillus kawachii

著者
K. Ito, K. Iwashita, and K. Iwano
伊藤清、岩下和裕、岩野君夫
要約

白麹菌(Aspergillus kawachii IFO 4308)の生産するキシラナーゼCは至適pHが2であり、pH1でも失活しない興味ある酸性キシラナーゼであるが、このキシラナーゼCをコードするcDNA及び染色体DNAをクローニングした。本cDNAは211アミノ酸をコードする633べ一スからなる0RFを有し、分泌に当たっては27個のアミノ酸残基がプロセッシングされていた。本cDNAにより形質転換された酵母はキシラナーゼを発現分泌したが、形質転換酵母により生産されたキシラナーゼは白麹菌同様至適pHが2であった。キシラナーゼCはB.pumilus等のバクテリア起源のキシラナーゼとホモロジーが高かったが、先にクローニングしたキシラナーゼAとはホモロジーが認められなかった。キシラナーゼCの染色体DNAは、キシラナーゼAの染色体DNAが9個のイントロンによって分断されていたのと対照的に、ただ1個のイントロンによって分断されていた。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,56,1338(1992)

10 液-膜-液型膜蒸留と半導体アルコールセンサーを利用した清酒醪アルコール濃度のオンライン測定

著者
佐無田隆、太田剛雄、大場俊輝
要約

多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜製チューブ(PTFE)を用い清酒醪アルコール濃度のオンライン測定を試みた。PTFEを醪中に浸し膜を透過したアルコール蒸気をPTFE内に循環した蒸留水に吸収させて平衡到達後の濃度をガスクロにより測定し、醪のエキス分で補正したところ精度よく醪アルコール分が測定できた。また、ガスクロに代えて半導体アルコールセンサーを用いてオンライン測定したところ、PTFE内にガラスビーズを充填し、半導体型センサー部を新鮮な空気で定期的に洗浄した場合に、短時間で再現性のよい測定ができることが分かった。

掲載雑誌
醸工、70,191(1992)

11 Isolation and Nucleotide Sequence of Hansenula anomala URA3 Gene Encoding 0rotidine- 5'-Phosphate Decarboxylase

著者
T. Ogata, Y. Iimura, T. Obata, and G. Tamura
尾形智夫、飯村穣、小幡孝之、田村學造
要約

本遺伝子をS.cerevisiaeのURA3をプローブにしてクローニングを行い、その塩基配列と転写開始点を決定した。推定されるORFは268アミノ酸からなり、他種酵母の当該酵素と相同性を示した。なかでも、K.lactisとS.cerevisiaeの当該酵素とそれぞれ81%と71%の相同性を示した。この遺伝子はS.cerevisiaeのura3変異を相補したが、5'および3'末端の非翻訳領域には相同性が見られなかった。また、3'末端にはS.cerevisiaeのポリアデニル化領域と同様の配列も見い出された。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,74,352(1992)

12 変異処理を行わないウレア非生産性清酒酵母の単離

著者
北本勝ひこ、宮崎佳緒子、山岡洋、五味勝也、熊谷知栄子
要約

清酒酵母協会9号、10号からウレア非生産性変異株(car1)を、アルギナーゼ欠損株のみが生育するCAO培地(カナバニン、オルニチン、アルギニンを含む培地)を使用することにより変異処理をせずに取得することができた。この変異株を使用した小仕込試験により、ウレアを含まない清酒の製造が可能であった。また、得られた清酒は、火入れ・貯蔵後もカルバミン酸エチルは検出されなかった。

掲載雑誌
醸協、87,598(1992)

13 ウレア非生産性清酒酵母による清酒実地醸造試験

著者
北本勝ひこ、宮崎佳緒子、山岡洋、五味勝也、熊谷知栄子
要約

清酒酵母協会9号、10号由来のウレア非生産性変異株(car1)を用いた実地醸造試験を全国の延べ21場の製造場で実施した。この変異株を使用することにより、ウレアを含まない清酒の製造が可能であることが確認された。これらの清酒は火入れ・貯蔵後もカルバミン酸エチルは検出されなかった。また、醪の発酵経過、清酒の一般成分、きき酒評点等で、協会酵母の親株で製造したものと大きな差は認められなかった。

掲載雑誌
醸協、87,602(1992)

14 麹菌(A.oryzae)のα-アミラーゼを生産する清酒酵母の造成

著者
木村和弘、北本勝ひこ、五味勝也、熊谷知栄子
要約

麹菌のα-アミラーゼをコードするcDNAを持つYEp型、YCp型、YI p型の3種類のプラスミドをK-701号由来の栄養要求性変異株UT1-Uに導入し、α-アミラーゼを生産する清酒酵母を造成した。α-アミラーゼ生産性はYEp型プラスミドによる形質転換体が最も多く、これを用いて清酒の小仕込試験を行った。発酵中のプラスミド保持率は非常に低く、その原因としてサザン解析の結果、清酒酵母が2μDNAを持たないcir0株であるためと推定された。

掲載雑誌
醸協、88,233(1993)

15 平成3酒造年度全国新酒鑑評会出品酒の分析について

著者
岩野君夫、伊藤清、西谷尚道
要約

全国新酒鑑評会の出品酒873点について、使用酵母の種類、もろみ日数及び成分値等について調査を行った。また品質については5段階評価による総合評価の審査に加えて、プロファイル法による官能審査を行った。さらにこれらの結果に基づき、全出品酒の傾向及び上位酒の出品傾向等について考察した。

掲載雑誌
醸試報、No.164,1(1992)

16 第15回本格焼酎鑑評会について

著者
大場俊輝、佐無田隆、太田剛雄、原昌道
要約

第15回本格焼酎鑑評会出品酒277点について鑑評結果、分析結果を述べるとともに酒質の傾向を考察した。

掲載雑誌
醸試報、No.164,27(1992)

17 第30回洋酒・果実酒鑑評会出品酒の分析値

著者
戸塚昭、大場俊輝、高橋利郎、斎藤和夫、太田剛雄、遠山亮、西谷尚道
要約

第30回洋酒・果実酒鑑評会出品酒330点について鑑評結果を述べるとともに、果実酒類、ウイスキー類及び梅酒について分析値を示した。

掲載雑誌
醸試報、No.164,9(1992)