平成5年度 研究成果

研究成果情報について

研究成果

1 Secretion of calf chymosin from the filamentous fungus Aspergillus oryzae

著者
K. Tsuchiya, K. Gomi, K. Kitamoto, C. Kumagai, and G. Tamura
土屋幸三、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、田村學造
要約

活性ある仔牛キモシンをA.oryzaeから発現・分泌させることに成功した。発現プラスミドはA.oryzaeグルコアミラーゼ遺伝子(glaA)のプロモーターの下流にキモシンをコードするcDNAを連結したものを構築した。分泌されたキモシンは自身のエンドプロテアーゼ活性により自動的に切断され活性型の成熟キモシンが生成された。キモシンの抗体によるウエスタン解析により生産されたキモシンは標準キモシンと同一の分子量を示した。キモシンmRNAはマルトースでは高発現され本来のグルコアミラ一ゼmRNAと同様に高発現していることが確認されたが、そのサイズは染色体上の組み込まれた位置の違いにより形質転換株によりばらつきが認められた。

掲載雑誌
Appl.Microbiol.Biotechnol.,40,327(1993)

2 Cloning and nucleotide sequence of the acid protease-encoding gane(pepA)from Aspergillus oryzae

著者
K. Gomi, K. Arikawa, N. Kamiya, K. Kitamoto, and C. Kumagai
五味勝也、有川健嗣、神谷直方、北本勝ひこ、熊谷知栄子
要約

A.oryzaeの酸性プロテアーゼ遺伝子(pepA)のクローニングを行った。プローブとしては、精製した酸性プロテアーゼの部分アミノ酸配列から合成したオリゴDNAプローブをプライマーに用いたPCR法により得たものを使用した。塩基配列によりpepA遺伝子は404個のアミノ酸をコードし3ケ所のイントロンが存在していると考えられた。アミノ酸組成は報告されているA.oryzaeの酸性プロテアーゼとほぼ一致した。A.awamoriの酸性プロテアーゼ遺伝子と比較したところ、アミノ酸レベルで67%の相同性が見られ、78アミノ酸から成るプレプロ配列の存在が示唆された。サザン解析の結果、pepA遺伝子は染色体上に1コピー存在していた。酸性プロテアーゼ遺伝子をA.oryzaeに多コピー導入したところ、酸性プロテアーゼ活性が2-6倍に上昇した形質転換株が得られた。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,57,1095(1993)

3 酒造原料米のプロテインボディーの品種間差

著者
木崎康造、小原昭、逸見彰則、荒巻功、小林信也、岡崎直人
要約

平成2年度産酒造用原料米25品種120点を精米歩合70%まで精米後、SDS-PAGE及びデンシトメーターによりプロテインボディー(PB)I及びIIを定量し、原料米タンパク質の品種間差を検討した。全タンパク量に占めるPB-I、PB-IIの割合は、全点平均でそれぞれ23.6%と61.7%であり、その比PB-II/PB-Iは約2.67であった。試料数3点以上の品種を比較すると、好適米品種は雄町を除きPB-Iの割合が低く、PB-II/PB-I比が高い傾向にあった。タンパク組成をもとにしたクラスター分析では、五百万石は北陸3県の類似度が高かった。25品種の原料米品種の内、コガネマサリには他の品種に見られない分子量約5万のタンパクバンドが確認された。

掲載雑誌
醸協、88,326(1993)

4 小型精米機の開発と精米条件の設定

著者
荒巻功、武田俊久、清水明、増井計彦、木崎康造、小林信也、岡崎直人
要約

酒造用原料米の育種における初期選抜の過程で、精米待性、醸造適性を把握するために必要な30g以下の少量の米を精白できる竪型の小型精米機を開発した。精米歩合40%までを最短時間でかつ最良な精米を行うためには、米の張り込み量を30gとし1700rpmで60%(約20~30分)まで精米後、1300rpmで40%(1時間~1時間30分)まで精米すればよいことがわかった。精米時間は約2時間であった。画像処理により米粒の形状変化を評価した結果、回転数などのコントロールにより一般の醸造用竪型精米機と同様な条件設定が可能であった。

掲載雑誌
醸協、88,639(1993)

5 セルロース系固形物に対し凝集促進性を有する酵母の分離とその芋焼酎蒸留排液処理への利用

著者
家藤治幸、城至純治、飯村穣、小幡孝之
要約

芋焼酎蒸留排液の不溶性固形物を強く凝集させる微生物M111菌を土壌より分離し、分類学的諸性質から不完全菌類のGeotrichum属酵母と同定した。M111菌が芋焼酎蒸留排液中の繊維分に強く吸着し、菌体が架橋の役割を果たすことによって凝集物を形成していることが観察された。本菌はセルロース繊維にも強く吸着し、さらにカオリン、タルク、活性炭等の無機物に対しても凝集促進作用を示した。セルロース繊維への吸着はプロテアーゼ処理で消失し、無機物への吸着は界面活性剤による処理で消失することから、両物質に対する吸着機構は異なるものと推定され、繊維成分への吸着には菌体表層蛋白質が関与していることが推察された。

掲載雑誌
農化誌、68,33(1994)

6 Mutant isolation of non-urea producing sake yeast by positive selection

著者
K. Kitamoto, K. Oda-Miyazaki, K. Gomi, and C. Kumagai
北本勝ひこ、宮崎(小田)佳緒子、五味勝也、熊谷知栄子
要約

発ガン性があると報告されているカルバミン酸エチル(ECA)は、微量ながら多くの酒類に検出される。清酒中に含まれるECAは、酵母のアルギナーゼ(CAR1遺伝子によりコード)により生成されるウレアがその前駆物質であることが知られている。これまで、遺伝子組替え技術によりCAR1遺伝子破壊株を育種し、これを用いることによりウレアを含まない清酒の製造が可能であることを報告した。今回、この遺伝子破壊株とその親株である協会清酒酵母の増殖特性を検討し、アルギナーゼ欠損株のみが生育できるCAO培地を見いだし、これを用いて通常の変異処理によりウレア非生産性清酒酵母を効率よく単離することが可能であることを確認した。得られた変異株の清酒醸造特性および一般成分値は親株と大きな差は認められず、ウレアおよびECAは検出されなかった。これらの株はECAを含まない清酒の製造に有効であると思われる。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,75,359(1993)

7 協会7号清酒酵母からウレア非生産性酵母の取得とそれを用いた清酒醸造試験

著者
福田潔、北本勝ひこ、五味勝也、熊谷知栄子
要約

清酒酵母協会7号由来のアルギナーゼ欠損変異株の単離を試みた。協会7号からの変異株の取得頻度は協会9号、10号と比べ非常に低く、かつ単離に要する培養も長い日数を要した。これらの要因を調べるためCAR1遺伝子の構造、変異株単離のための培地組成、培養条件の検討を行った。取得頻度の低い原因としては、CAR1遺伝子にホモに変異が入るgene conversionの頻度が低いことが推定された。得られた変異株による仕込試験により、ウレアを含まない清酒醸造が可能であった。また、これらの清酒を加熱処理しても、ECAは不検出であった。その他の、発酵特性や一般成分値では親株と大きな差は見られなかった。

掲載雑誌
醸協、88,633(1993)

8 Taxonomic studies on yeast-lysing bacteria, and a new species Rarobacter incanus

著者
N. Goto-Yamamoto, S. Sato, H. Miki, Y.K.Park, and M. Tadenuma
後藤(山本)奈美、佐藤俊一、三木秀夫、Young K Park、蓼沼誠
要約

ブラジルで分離された46株の酵母溶解菌は、DNAのG+C含量とDNA-DNAハイブリダイゼーションにより、YLM-32グループ(15株)、YLM-115グループ(28株)、YLM-32グループ(2株)、及び独立した1株にグルーピングされた。これらの菌は、先に国内で分離されたRarobacter faecitabidusと類似した形態的・生理的性質を示したが、YLM-115グループは細胞壁ペプチドグリカンのジアミノ酸としてリジンを含むため、分類が保留された。YLM-32グループにはRarobacter属の新種、R.incanusが提案された。R.incanusのDNAのG+C含量は64.4-65.5%で、R.faecitabidusより僅かに低い値を示した。細胞壁ペプチドグリカンのアミノ酸組成は、D-Ala:L-Ala:D-Glu:L-Orn=1:1:2:1でL-Ornを含む点がR.faecitabidusと異なった。その他の表現形及び化学分類的性質はR.faecitabidusとよく類似したが、DNA-DNAハイブリダイゼーションの結果、R.incanusとR.faecitabidusは異なるクラスターを形成した。タイプストレインはYLM-32(JCM6350)。

掲載雑誌
J.Gen.Appl.Microbiol.,39,261(1993)

9 Isolation of yeast-lysing bacteria in Brazil

著者
N. Goto-Yamamoto, S. Sato, H. Miki, Y.K.Park, and M. Tadenuma
後藤(山本)奈美、佐藤俊一、三木秀夫、Young K Park、蓼沼誠
要約

ブラジルで土壌、花、果実等から50株の酵母溶解菌が分離された。うち46株は、Rarobacter属及び類縁の酵母溶解菌の性質を示した。残る4株はグラム陽性で好気的生育にヘムを要求しなかった。このうち、2株はOerskovia属に、1株はArthrobacter属に分類されたが、残る1株は末同定である。ブラジルでのR.incanus及びYLM-115グループの分離割合は国内よりも高い値を示した。分離源と分離された種の間には関連性は認められなかった。

掲載雑誌
醸試報、No.165,37(1993)

10 酵母細胞壁添加による濃縮ブドウ果汁の発酵停止の予防

著者
後藤(山本)奈美、堺哲也、佐藤昭佳、戸塚昭
要約

過度の果汁清澄や嫌気的発酵によって、ワインの発酵後期に発酵が遅延したり停止したりする場合がある。酵母細胞壁画分には、発酵阻害物質を吸着したり、不飽和脂肪酸等の酵母のアクティベーターを供給したりする作用があり、発酵停止の予防や救済に効果があると報告されている。そこで、発酵遅延や停止に陥りやすいと言われている濃縮ブドウ果汁に、酵母細胞壁を添加したところ、発酵遅延や停止を防止する効果が確認された。生成酒のアルコール度数、残糖分以外の分析値には、細胞壁添加区と無添加区の間に有為な差は認められなかった。また、官能検査の結果、どの生成酒にも酵母臭は認められなかった。

掲載雑誌
ASEV Jpn.Rep.,4,88(1993)

11 Characteristics of acid-stable α-amylase production by submerged culture of Aspergillus kawachii

著者
S. Sudo, T. Ishikawa, Y. Takayasu-Sakamoto, K. Sato, and T. Oba
須藤茂俊、石川雄章、坂本(高安)裕子、佐藤和夫、大場俊輝
要約

液体培養における白麹菌Aspergillus Kawachii IFO4308の耐酸性α-アミラーゼ(asAA)生産特性について検討した。asAAが良好に生産される培地を確立し、約130mg/lを生産させた。asAAは誘導物質存在下で菌体内グリコーゲン含量が低下した時点から生産が開始された。グリコーゲン含量は培地グルコース濃度と菌体増殖速度に影響された。生産開始以降、asAAはほぼ増殖連動型で生産されたが、生産開始時点に低下し始めたグリコーゲン含量がその後低いレベルで推移した場合には良好に生産されたが、増加した場合は抑制される傾向にあった。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,76,105(1993)

12 中国曲の微生物相と酵素活性

著者
横山直行、田中一良、杜連祥、荒巻功、木崎康造、小林信也、岡崎直人
要約

中国曲の断面は色や硬度の違いによる層状構造を有していることから、層ごとの微生物相及び酵素活性について検討した。表層から内層に向かって5層に分けられたが、微生物は糸状菌と酵母が表面に少なく第2層に多かった。細菌は曲表面に多く、内層に向かって減少する傾向にあった。酵素活性は第4層が高かったが、その酵素組成を麹菌の場合と比較すると、α-アミラーゼ活性が低く、グルコアミラーゼ活性がやや低く、酸性プロテアーゼは同等、酸性カルボキシペプチダーゼが低かった。分離した糸状菌は、曲の主要微生物と言われているRhizopus属でなくAbsidia属と考えられた。

掲載雑誌
醸協、89,72(1994)

13 平成4酒造年度全国新酒鑑評会出品酒の分析について

著者
岩野君夫、伊藤清、小関卓也、西谷尚道
要約

全国新酒鑑評会の出品酒867点について、使用酵母の種類、もろみ日数及び成分値等について調査を行った。また品質については5段階評価による総合評価の審査に加えて、プロファイル法による官能審査を行った。さらにこれらの結果に基づき、全出品酒の傾向及び上位酒の出品傾向等について考察した。

掲載雑誌
醸試報、No.165,1(1993)

14 第31回洋酒・果実酒鑑評会出品酒の分析値

著者
戸塚昭、大場俊輝、高原康生、佐藤和夫、後藤奈美、須藤茂俊、鈴木崇、西谷尚道
要約

第31回洋酒・果実酒鑑評会出品酒332点について鑑評会結果を述べるとともに、果実酒類及びウィスキー類について分析値を示した。

掲載雑誌
醸試報、No.165,11(1993)