平成6年度 研究成果

研究成果情報について

研究成果

1 Trichosporon M111株を用いた甘藷焼酎蒸留排液の固液分離

著者
高峯和則、瀬戸口真治、間世田春作、浜崎幸男、武宮重人、小幡孝之
要約

蒸留排液の固液分離に有効なM111株の培養条件、菌体の保存性、蒸留排液の処理条件及び実用規模での甘藷焼酎蒸留排液の固液分離の試験を行った。その結果、M111株の培地には蒸留排液の液部を用いることで安価な培養が可能なこと及び最適培養温度は20℃であることがわかった。また、本菌株は培養条件によって酵母状と菌糸状の二形性を示すが、ジャーファーメンターを用いて培養を行う場合、十分な通気と撹拌を行うことによって酵母状の細胞が得られた。酵母状のM111株は蒸留排液に含まれる固形分を速やかに凝集させ、実用規模の固液分離試験においても高い効果を示した。なお、本菌株の実用に際し有利な性質として、最適処理温度が60℃であることから、蒸留後の温度の高い排液の処理が可能であること、さらに、菌体を室温で14日間あるいは冷蔵庫内で30日間保存した後も凝集活性に低下が見られないことが示された。

掲載雑誌
醸協、89,315(1994)

2 酵母による甘藷製焼酎蒸留排液の処理

著者
鈴木修、下飯仁、家藤治幸、飯村穣、小幡孝之
要約

甘藷製焼酎蒸留排液にTrichosporon M111株を添加することによって固液分離を効果的に行うことができた。得られたろ液を排水処理用酵母であるHansenula anomala J-224で処理したところ65%のBODを除去することができた。そこで得られた処理液をさらに酵母溶解菌であるRarobacter faecitabidusで処理することによって、固形分を1.4%から0.7%に低減することができた。この処理液を蒸留場から排出される冷却水で約3倍に希釈することによって活性汚泥法による最終処理が可能となった。

掲載雑誌
醸協、89,321(1994)

3 Isolation and Characterization of a Yeast Cryptococcus sp.S-2 That Produces Raw Starch-digesting α-Amylase,Xylanase,and Polygalacturonase

著者
H. Iefuji, Y. Iimura, and T. Obata
家藤治幸、飯村穣、小幡孝之
要約

天然からα-アミラーゼ、キシラナーゼ及びポリガラクチュロナーゼを生産分泌する酵母を分離した。本菌は発酵性を持たずDBB、ウレアーゼ、DNaseの各テストで陽性であり、主要ユビキノン系はQ-10、核DNAのGC含量は67mol%であった。細胞の形態は球形から卵形を示し、仮性菌糸やテリオスポアは形成されない。キシロースを菌体構成糖として含んでいた。以上の結果から本菌株はCryptococcus属に属する担子菌系酵母であると同定された。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,58,2261(1994)

4 γ線照射ブドウを用いた赤ワイン醸造における色素の抽出

著者
高原康生、安井孝、後藤(山本)奈美、鈴木崇、戸塚昭
要約

原料ブドウ(カベルネ・ソービニヨン)に1kGyのγ線を照射して赤ワインの試験醸造を行ったところ、アントシアン等の色素の抽出効率が向上し、色素抽出用酵素を作用させた場合と同様の効果が認められた。また、フェノール化合物指数の値から、γ線照射によってフェノール化合物の高分子化が促進されることが明らかになった。

掲載雑誌
醸協、89,831(1994)

5 Lactobacillus homohiochiiのタイプストレインの分類学的問題点

著者
後藤(山本)奈美、Annick Joyeux、Aline Lonvaud-Funel
要約

Lactobacillus homohiochiiのタイプストレインであるATCC15434株は、ヘテロ発酵型真性火落菌の性質を示し、DNA-DNAハイブリダイゼーションによって、L.fructivoransと同定された。一方、百瀬らによってL.homohiochiiと同定されたS-26とS-51は互いに高いDNAの相同性を示し、他のLactobacillus属の種から独立であることが示された。

掲載雑誌
醸協、89,643(1994)

6 国産赤ワインのフェノール化合物指数

著者
後藤(山本)奈美、安井孝、戸塚昭
要約

赤ワインに含まれるフェノール化合物の重合度や多糖類との結合強度を示すGloriesらのフェノール化合物指数(EtOH指数、HCl指数、ゼラチン指数及び高分子色素指数)を国産赤ワイン分析に応用した。その結果、国産赤ワインの新酒、新酒以外の各価格帯、及びボルドー産ワイン間で、タンニン濃度・アントシアン濃度等の分析値だけでなく、フェノール化合物指数にも大きな違いが認められた。さらに、主成分分析によって各区分が明確にグルーピングされたので、国産赤ワインの各区分の位置づけを、外国産ワインと対比することによって、明確にすることが可能となった。

掲載雑誌
醸協、89,989(1994)

7 High level secretion of calf chymosin using a glucoamylase-prochymosin fusion gene in Aspergillus oryzae

著者
K. Tsuchiya, T. Nagashima, Y. Yamamoto, K. Gomi, K. Kitamoto, C. Kumagai, and G.Tamura
土屋幸三、長島直、山本綽、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、田村學造
要約

麹菌(A.oryzae)による仔牛キモシンの分泌量をA.oryzaeグルコアミラーゼ遣伝子(glaA)との融合遺伝子を用いることによって改善した。A.oryzae glaA遣伝子のThr511までのコードする部分(GA-511)をプロキモシンcDNAと読みとり枠が一致するように接続したプラスミドをA.oryzae M-2-3に導入した形質転換体F316株は、キモシン遺伝子を直接glaAプロモ一ターで発現させた形質転換体CHY-1と比較して液体培養での分泌量が約5倍に上昇していた。ウエスタン解析の結果、培地中に分泌された融合タンパクからプロ配列のプロセッシングによる成熟型キモシンが生成されたことが示唆された。また、硫安を添加した小麦フスマを用いて固体培養を行ったところF316株は150(mg/kgフスマ)のキモシンを生産し、キモシンの高生産が可能となった。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,58,895(1994)

8 A novel culture method for high level production of heterologous protein in Saccharomyces cerevisiae

著者
T. Nagashima, Y. Yamamoto, K. Gomi, K. Kitamoto, and C. Kumagai
長島直、山本綽、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子
要約

酵母形質転換株を15℃の低温で培養することで異種タンパク質が高生産されることを見いだし、新しい培養法を開発した。麹菌(A.oryzae)のα-アミラーゼcDNAまたはヒトリゾチーム合成DNAを導入した酵母形質転換株を選択培地を用い30℃で、full growthまで前培養した。無菌的に集菌した菌体を栄養培地へ移植し、15℃で2日間、さらに、30℃で2日間振とう培養した。このような低温培養法により培養された酵母形質転換株はα-アミラーゼ、ヒトリゾチームをそれぞれ28.6mg/l、6.1mg/lと生産し、高い生産性を示した。低温培養法による異種タンパク質の生産において、ADH1あるいはGAPDHプロモーターを持つYEp、YCpあるいはYIpの酵母発現ベクターのいずれを用いても従来の30℃一定の培養法に比べて約2倍の高生産性を示した。この低温培養法による異種タンパク質の高生産性は今回テストしたS.cerevisiae株に特異的な現象ではなく、種々の異種タンパク質の生産に有効であると思われた。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,58,1292(1994)

9 Electrophoretic karyotype and gane assignment to chromosomes of Aspergillus oryzae

著者
K. Kitamoto, K. Kimura, K. Gomi, and C. Kumagai
北本勝ひこ、木村和弘、五味勝也、熊谷知栄子
要約

麹菌、A.oryzaeの染色体をパルスフィールド電気泳動により7本のバンドに分離することができた。染色体の長さは大きいものから順に、7.0、5.2、5.0、4.5、4.0、3.7及び2.8Mbpであった。クローニングされているα-アミラーゼ遺伝子など13種類の遣伝子の物理的マッピングを行った。また、100種類のランダムなDNA断片をプローブとしたサザン解析とEtBr染色の強度から、一番小さな2.8Mbpのバンドは2本の染色体からなると推定された。これらのことからA.oryzaeは、A.nidulansやA.nigerと同様に8本の染色体を持ち、その全ゲノムサイズは35Mbpと推定された。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,58,1467(1994)

10 清酒麹中のα-グルコシダーゼ活性と清酒醸造における働き

著者
森本良久、北本勝ひこ、藤田義人、五味勝也、熊谷知栄子
要約

全国の清酒製造場(12場)の麹(吟醸用、普通酒用)について、α-グルコシダーゼ、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素活性を測定するとともに、製麹条件との関係について解析した。麹中のα-グルコシダーゼ活性はグルコアミラーゼ、α-アミラーゼと正の相関が認められ、特に後者との間に高い相関を示した。α-アミラーゼは精米歩合と高い相関を示し、吟醸用麹のような低精米歩合のものでは活性が著しく低くなるのに対し、α-グルコシダーゼの活性低下は顕著ではなかった。このことは、普通麹に比して吟醸麹でα-グルコシダーゼの相対的活性が高くなることから、吟醸酒製造ではα-グルコシダーゼが重要な働きをしていることが考えられた。精製したα-グルコシダーゼを用いた麹抽出液添加実験から、α-グルコシダーゼがグルコース生成に寄与していることが示された。生成α-グルコシダーゼ単独では、デンプンからグルコースを生成することは認められなかったが、α-アミラーゼとの共存下ではグルコース生成が認められた。通常の麹中の存在量からα-グルコシダーゼのグルコース生成活性は、グルコアミラーゼ活性として測定される値の10~20%程度と推定され、清酒醪中での糖化においても無視できない働きをしていると考えられた。

掲載雑誌
生物工学、73,97(1995)

11 泡盛中に見いだされたフェノール化合物

著者
小関卓也、伊東康朗、伊藤清、岩野君夫、蓼沼誠
要約

泡盛を貯蔵熟成した古酒(クース)の中には、フェルラ酸、バニリン及びバニリン酸等のフェノール化合物が合まれているが、HPLCによって簡易に定量することが可能となった。香気成分であるバニリンは、閾値(0.2ppm)以上含まれ、官能的に認識されることより、泡盛の香りの形成に寄与していることが示唆された。モデル焼酎による蒸留及び貯蔵試験の結果、フェルラ酸からバニリン、バニリン酸に変換することが確認された。

掲載雑誌
醸協、89,408(1994)

12 Comparison of Acid-Stable α-Amylase Production by Aspergillus kawachii in Solid- State and Submerged Cultures

著者
S. Sudo, T. Ishikawa, K. Sato, and T. Oba
須藤茂俊、石川雄章、佐藤和夫、大場俊輝
要約

焼酎白麹菌が液体培養と比較して固体培養で容易に耐酸性α-アミラーゼを生産する理由を検討した。この酵素の生産は液体培養と同様に固体培養時にも菌体内グリコーゲン含量が低下した時期から開始された。いずれの培養法でも増殖連動型の生産パターンを示したが、固体培養では酵素生産の開始時期が早く、その後菌体が対数増殖し、高い生産速度に達するために多量の酵素生産が行われると考えられた。この酵素生産は異化物質抑制と固有の生産抑制機構によって制御されると推測された。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,77,483(1994)

13 Growth of Submerged Mycelia of Aspergillus kawachii in Solid-State Culture

著者
S. Sudo, S. Kobayashi, A. Kaneko, K. Sato, and T. Oba
須藤茂俊、小林精志、金子明裕、佐藤和夫、大場俊輝
要約

固体培養では基底菌糸とともに気中菌糸も生育する。ノーザン解析の結果、耐酸性α-アミラーゼは気中菌糸ではあまり生産されず、主に基底菌糸で生産されると考えられた。従って、酵素生産を高めるためには基底菌糸状態での増殖が重要であると推察された。固体培養では基底菌糸が旺盛に生育したが、これは麹中に形成される空隙を通じて空気中の酸素が麹内部に効率的に拡散するためと考察した。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,79,252(1995)

14 Aspergillus kawachiiの振とう培養液による本格焼酎製造

著者
赤尾健、須藤茂俊、佐藤和夫、大場俊輝
要約

焼酎白麹菌の振とう培養液を用いて本格焼酎を製造した。96時間培養の液中には耐酸性α-アミラーゼやグルコアミラーゼが良好に生産された。発酵速度や発酵歩合はやや低くなったが、良好な品質の焼酎が得られた。

掲載雑誌
醸協、89,913(1994)

15 小型精米機による精米特性の評価

著者
武田俊久、荒巻功、木崎康造、岡崎直人
要約

新たに開発した小型精米機により酒造原料米の精米特性について検討し、精米工程中の砕米率や無効精米歩合などの精米特性は、玄米の水分に極めて大きく影響されることが認められた。即ち、玄米水分が多い程砕米率が高くなり、このことは実用精米機について認められる傾向と一致している。この理由として、精米時の水分が多いと米の硬度が低下するため砕米になり易くなることが推測された。画像処理法を用いて米粒の形状変化を評価した結果、本小型精米機は、回転数のコントロールによって、実用精米機と同様な精米の調製が可能であった。

掲載雑誌
醸協、88,477(1994)

16 近赤外分光分析法による米麹中の菌体量測定と波長帰属

著者
荒巻功、福田賢一、橋本寿之、石川朝章、木崎康造、岡崎直人
要約

前処理を行うことなく、近赤外分光分析法(NIR)法により米麹中の菌体量を迅速に測定する方法を確立するとともに、得られた検量線の主波長の帰属を検討し、以下の結果を得た。米麹を粉砕・脱水等の処理をせずに、直接粗粒用の大型サンプルセルに充填し、粒状のままでNIR法を行い、麹菌体量に開する良好な検量線を得た。検量線は、原料米の生産年度、品種、精米歩合及び形状に影響されず、精度よく麹菌体量の測定が可能でしかも迅速に行えることから、現場での工程管理に有効と考えられた。検量線に選択された主波長(2348nm)は、麹菌体細胞に由来する脂質関連物質の吸収波長であると推定された。

掲載雑誌
生物工学、73,33(1995)

17 中国曲から分離したAbsidia属糸状菌の増殖及び醸造特性

著者
木崎康造、山田健一郎、瀧田正美、荒巻功、杜連祥、岡崎直人
要約

中国曲から分離したAbsidia属糸状菌が、α米上で生育できることを確認した。分離菌39株から自動増殖測定装置を用い生育優良株としてAbsidia A-68を選択した。Absidia A-68の最適増殖条件は、α米水分量41%、精米歩合90%、増殖温度35℃と考えられ、酵素生産量の面からは、この条件で水分量をやや低くしたところと考えられた。清酒麹に用いられるA.oryzaeRIB128と比ベ、最適増殖条件においても、増殖量は約70%、酵素活性については酸性プロテアーゼはやや高いものの、α-アミラーゼは1/100、グルコアミラーゼ活性は約半分と低く、R.javanicus RIB5501と同様な増殖活性と酵素活性を示した。精米歩合70%の蒸米を用いた長時間製麹(109時間)においては、十分な生育が認められたが、糖化系の酵素活性が極めて低く、製造されたAbsidia麹を用いて行った小仕込試験では、発酵が難しかった。

掲載雑誌
醸協、90,143(1995)

18 平成5酒造年度全国新酒鑑評会出品酒の分析について

著者
岩野君夫、伊藤清、小関卓也、蓼沼誠
要約

全国新酒鑑評会の出品酒864点について、使用酵母の種類、もろみ日数及び成分値等について調査を行った。また品質については5段階評価による総合評価の審査に加えて、プロファイル法による官能審査を行った。さらに、これらの結果に基づき、全出品酒の傾向及び上位酒の出品傾向等について考察した。

掲載雑誌
醸試報、No.166,1(1994)

19 第17回本格焼酎鑑評会について

著者
大場俊輝、佐藤和夫、須藤茂俊、西谷尚道
要約

第17回本格焼酎鑑評会出品酒253点について鑑評結果、分析結果を述べるとともに酒質の傾向を考察した。

掲載雑誌
醸試報、No.166,29(1994)

20 第32回洋酒・果実酒鑑評会出品酒の分析値

著者
梅田紀彦、橋爪克己、後藤奈美、城戸知子、蓼沼誠
要約

第32回洋酒・果実酒鑑評会出品酒301点について鑑評結果を述べるとともに、果実酒類及びウィスキー類について分析値を示した。

掲載雑誌
醸試報、No.166,11(1994)