平成7年度 研究成果

研究成果情報について

研究成果

1 Cloning and Nucleotide Sequence of the Calmodulin-Encoding Gene (cmdA) from Aspergillus oryzae

著者
K. Yasui, K. Kitamoto, K. Gomi, C. Kumagai, Y. Ohya, and G. Tamura
安井克弘、北本勝ひこ、五味勝也、熊谷知栄子、大矢禎一、田村學造
要約

A.oryzaeのカルモジュリンをコードする遺伝子をA.nidulansカルモジュリン遺伝子断片をプローブとしてクローニングした。サザーン解析の結果、cmdA遺伝子は染色体上に1コピー存在していた。cmdA遺伝子及びそのcDNAの塩基配列を決定し、両者の配列を比較したところ、本遺伝子は5つのイントロンを含んでいた。推定されるアミノ酸配列の相同性はA.nidulansと100%(塩基レベルでは68%)、ニワトリと84%であった。得られたcDNAをGAL1プロモーターの下流に連結した酵母発現用プラスミドを作製し、S.cerevisiaeのカルモジュリン欠損株に導入したところ、その機能を相補したことから、本cDNAが機能を有するカルモジュリンをコードしていることが確かめられた。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,59,1444(1995)

2 Nucleotide Sequence and Expression of α-Glucosidase-encoding Gene (agdA) from Aspergillus oryzae

著者
T. Minetoki, K. Gomi, K. Kitamoto, C. Kumagai, and G. Tamura
峰時俊貴、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、田村學造
要約

麹菌のα-グルコシダーゼ(AGL)をコードする遺伝子(agdA)をA.oryzaeのRIB40の染色体DNAから単離して、プラスミドpRBG1にクローン化して発現させ、塩基配列を決定した。本遺伝子はA.nigerのagdAとの比較から52~59bpの3個のイントロンを含み、985アミノ酸をコードしていると推定され、そのホモロジーは78%であった。種々の生物のAGLの活性残基周辺は非常によく保存されており、麹菌のAGLの活性残基はAsp492と推定された。また、サザーン解析の結果、本遺伝子は染色体上に1コピー存在するものと考えられた。agdAを多コピー導入した麹菌形質転換体のα-グルコシダーゼ活性は6~16倍に上昇した。また、本遺伝子の発現はタカアミラーゼA(amyB)、グルコアミラーゼ(glaA)遺伝子と同様にマルトースで誘導され、agdAのプロモーター領域にもマルトース誘導に関与するシスエレメントの存在が示唆された。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,59,1516(1995)

3 Characteristic Expression of Three Amylase-encoding Genes,agdA,amyB,and glaA in Aspergillus oryzae Transformants Containing Multiple Copies of the agdA Gene

著者
T. Minetoki, K. Gomi, K. Kitamoto, C.Kumagai, and G. Tamura
峰時俊貴、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、田村學造
要約

野生株の麹菌において、α-グルコシダーゼ(AGL)をコードする遺伝子(agdA)の発現は、タカアミラーゼA(TAA)遺伝子(amyB)及びグルコアミラーゼ(GLA)遺伝子(glaA)と同様に、転写レベルでマルトースにより誘導された。agdAを多コピー導入した形質転換体では、高レベルのAGL活性が観察された。さらに、AGL活性の高い形質転換体ほどTAAとGLA活性が低くなった。ノーザン解析によりAGL形質転換体では、マルトース存在下で多量のagdAのmRNAが生産されるとき、amyB、glaAの転写レベルは激減することが示された。このときの培養条件でのグルコース濃度はAGL形質転換体の方がコントロール株より高かった。このことから、AGL形質転換体においてamyB、glaAの発現量の減少は、マルトース誘導に関与する共通の調節因子のタイトレーションかカーボンカタボライトリプレッションのいずれかのためであることが示唆された。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,59,2251(1995)

4 Molecular Cloning of a Genomic DNA for Enolase from Aspergillus oryzae

著者
M. Machida, T.V.J.Gonzalez, L.K.Boon, K. Gomi, and Y. Jigami
町田雅之、Trini Violeta Jime'nez Gonzalez、Lim Kong Boon、五味勝也、地神芳文
要約

麹菌の染色体DNAライブラリーから、酵母Saccharomyces cerevisiaeのENO2遺伝子のコード領域をプローブとするハイブリダイゼ一ションによってエノラーゼ遺伝子(enoA)をクローニングした。クローニングされた2.9kbのBglII断片には、enoAのコード領域と5′及び3′末端非コード領域を含んでいた。塩基配列を決定したところ、イントロンと推定される領域を除去した後の麹菌enoAと酵母ENO2の間の塩基配列の相同性は66.9%であった。また、サザーン解析の結果、麹菌は1種類のエノラーゼ遺伝子を有していることが明らかとなった。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,60,161(1996)

5 Functional Role of Aspergillus oryzae Glucoamylase C-Terminal Domain lnvestigated Using Its cDNA

著者
T. Nagashima, Y. Yamamoto, K. Kitamoto, and C. Kumagai
長島直、山本綽、北本勝ひこ、熊谷知栄子
要約

麹菌のグルコアミラーゼのC末端ドメインの機能解析を行うために、部位特異的変異法によりcDNAにストップコドンを挿入し、変異グルコアミラーゼcDNAを作製した。野生型及びC末端ドメインを欠失した変異型グルコアミラーゼを酵母Saccharomy cescerevisiae YPH250で発現させ、アカボースをリガンドとするアフィニティー・クロマトグラフィーにより精製した。マルトオリゴ糖に対するKmは両酵素ともほとんど同じであったが、可溶性デンプンに対するKmは変異型の方が大きかった。また、変異型グルコアミラーゼは生デンプンをほとんど分解しなかったが、野生型はよく分解した。この結果から、麹菌のグルコアミラーゼのC末端ドメインもA.awamoriのグルコアミラーゼのC末端ドメインと同様に生デンプン吸着の機能をもつものと考えられた。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,80,280(1995)

6 Molecular Cloning and Heterologous Expression of the Gene Encoding Dihydrogeodin Oxidase,a Multicopper Blue Enzyme from Aspergillus terreus

著者
K. Huang, I. Fujii, Y. Ebizuka, K. Gomi, and U. Sankawa
黄科学、藤井勲、海老塚豊、五味勝也、三川潮
要約

Aspergillus terreusのジヒドロゲオジン・オキシダーゼ(DHGO)はジヒドロゲオジンから(+)-ゲオジンへの変換を触媒する立体特異的なフェノール・オキシダーゼである。A.terreusの3日間培養した菌体のmRNAを用いたcDNAライブラリーから、精製DHGOに対するポリクローナル抗体によって4個のポジティブクローンを取得した。しかし、これら全てが280bp程度の部分的なcDNAしか含んでいなかったので、これをプローブとしてDHGOのゲノム遺伝子と完全cDNAをスクリーニングした。得られたクローンの塩基配列から、DHGOは605アミノ酸からなるタンパク質で、ラッカーゼやアスコルビン酸オキシダーゼのような銅を何個かもつ青色酵素(muticopper blue enzyme)と高いホモロジーを示し、4個の銅結合ドメインをもつことが示唆された。また、DHGO遺伝子には7個の短いイントロンが存在していた。DHGO遺伝子をタカアミラーゼA遺伝子のプロモーターの支配下でAspergillus nidulansで発現させたところ、活性のあるDHGOタンパク質が生産された。さらに、Penicillium frequentansに導入してもDHGOタンパク質が発現することがウェスタン解析により示された。

掲載雑誌
J.Biol.Chem.,270,21495(1995)

7 Cloning,characterization and overproduction of nuclease S1 gene (nucS) from Aspergillus oryzae

著者
B.R.Lee, K. Kitamoto, O. Yamada, and C. Kumagai
李秉魯、北本勝ひこ、山田修、熊谷知栄子
要約

PCR増幅DNA断片をプローブとして麹菌Aspergillus oryzaeのS1ヌクレアーゼ遺伝子(nucS)をクローニングした。2.6kbの断片をシークエンスした結果、nucSは49bpと50bpの2個のイントロンを含む963bpのORFからなり、20個のシグナルペプチドと267個のアミノ酸からなる成熟タンパク質をコードしていた。成熟タンパク質のアミノ酸配列はすでに報告されているS1ヌクレアーゼのものと1アミノ酸の置換以外は完全に一致していた。サザーン解析の結果、麹菌にはnucSが1コピーだけ存在していた。nucSの構造遺伝子領域をglaAプロモーターと融合させたものを麹菌に導入したところ、宿主株に比べて100倍程度S1ヌクレアーゼの生産量が上昇した。

掲載雑誌
Appl.Microbiol.Biotechnol.,44,425(1995)

8 Cloning and sequencing of cellulase cDNA from Aspergillus kawachii and its expression in Saccharomyces cerevisiae

著者
S. Sakamoto, G. Tamura, K. Ito, T. Ishikawa, K. Iwano, and N. Nishiya
坂本伸、田村學造、伊藤清、石川雄章、岩野君夫、西谷尚道
要約

焼酎白麹菌(Aspergillus kawachii IFO4308)から239アミノ酸残基からなるセルラーゼをコードするcDNAをクローニングした。本セルラーゼはAspergillus aculeatusのセルラーゼ(F1-CMCase)と高いホモロジーを有していた。このcDNAを酵母(Saccharomyces cerevisiae)に導入したところ、CMC-コンゴーレッド培地上にハローが認められ、発現が確認された。

掲載雑誌
Curr.Genet.,27,435(1995)

9 Cloning of the xynNB Gene Encoding Xylanase B from Aspergillus niger and Its Expression in Aspergillus kawachii

著者
K. Kinoshita, M. Takano, T. Koseki, K. Ito, and K. Iwano
木下宏太郎、鷹野誠、小関卓也、伊藤清、岩野君夫
要約

Aspergillus nigerは2種類のキシラナーゼを生産するがこのうちキシラナーゼBをコードする遺伝子をクローニングした。本キシラナーゼは先にクローニングしているAspergillus kawachiiの酸性キシラナーゼとホモロジーを有していたが、至適pHや耐酸性等の酵素化学的性質は大きく異なっていた。両者の構造を比較したところ、多くのアミノ酸置換が認められ、特にN末端部位の構造は大きく異なっていた。本遺伝子をAspergillus kawachiiに導入したところ多量のキシラナーゼを発現分泌した。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,79,422(1995)

10 Cloning and Nucleotide Sequence of the Ribonuclease T1 Gene(rntA)from Aspergillus oryzae and Its Expression in Saccharomyces cerevisiae and Aspergillus oryzae

著者
T. Fujii, H. Yamaoka, K. Gomi, K. Kitamoto, and C. Kumagai
藤井力、山岡洋、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子
要約

麹菌Aspergillus oryzaeのリボヌクレアーゼ(RNase)T1をコードする遺伝子(rntA)とcDNAをクローニングし塩基配列を決定した。その結果、RNaseT1はアミノ酸26残基からなるプレプロ配列をもつこと及びrntA遺伝子にはイントロン(114bp)が1つだけシグナル配列をコードする部位にあることが明らかとなった。取得したcDNAを、α-アミラーゼ遺伝子(amyB)プロモーターにつなぎA.oryzaeに導入したところ、誘導条件下で対照の300倍以上のRNaseT1を分泌した。一方、GAL1プロモーターにつなぎ酵母Saccharomyces cerevisiaeに導入したところ、誘導条件下で顕著な生育阻害が認められた。この結果から、A.oryzaeにRNaseT1への防御機構がある可能性が示唆された。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,59,1869(1995)

11 同一品種から分別した心白米および非心白米の精米特性

著者
荒巻功、小川清、山本幸治、鈴木潤一、菅野正彦、木崎康造、岡崎直人
要約

画像処理法を用いた形状分析装置により、同一品種について心白米と非心白米とに精度よく分けることができ、分別した心白米と非心白米との精米特性について調べた。その結果、硬度は心白米が常に低く、精米が進むに従ってさらに低くなった。吸水性は、心白米の吸水速度が速いものの吸水率には差がなかった。各品種の無効精米歩合は50%心白米が有意に小さく、実地の精米試験でも精米歩合が低くなるに従って心白米の比率が高くなった。また、スリット型のストレーナーを用いて精米することにより、心白が表面に露出した縦割れ砕米を得ることができたが、心白の形状は各品種とも円弧型の心白が一対に向き合っており、中心部には心白がなかった。

掲載雑誌
生物工学、73,381(1995)

12 Structural Relationships among Killer Toxins Secreted from the Killer Strains of the Genus Williopsis

著者
T. Kimura, N. Kitamoto, Y. Ohta, Y. Kito, and Y. Iimura
木村哲哉、北本則行、太田泰弘、鬼頭幸男、飯村穣
要約

以前にWilliopsis mrakii IFO 0895が分泌生産するHM-1トキシンとW.saturnus var.saturnus IFO 0117が分泌生産するHYIトキシンの遺伝子(それぞれHMK,HSK)をクローニングし、それらが相同性の高いことを示した。そこで、これらの遺伝子を用いてWilliopsis属のキラートキシン遺伝子についてゲノムDNAのサザン解析を行いそれらの相同性を調べた。その結果、W.mrakiiの3株のキラー遺伝子とW.saturnus var.saturnusのキラー遺伝子とは相同性が見られた。またW.saturnus var.subsufficiensの2株についてはHMK、HSKのいずれとも弱く反応する遺伝子の存在することが示された。一方、W.beijerinckii IFO 0982については相同性のある遺伝子は存在しなかった。さらに、HYIに対する特異的な抗体を用いて、供試株の分泌生産するキラートキシンについて免疫学的相同性を調べたところゲノムサザン解析の結果と同様W.mrakiiおよびW.saturnus var.subsufficiensとは反応したが、他の株のトキシンとは反応しなかった

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,80,85(1995)

13 Effect of Yeast Fumarase Gene(FUM1)Disruption on Production of Malic,Fumaric and Succinic Acids in Sake Mash

著者
T. Magarifuchi, K. Goto, Y. Iimura, M. Tadenuma, and G. Tamura
曲渕哲朗、後藤邦康、飯村穣、蓼沼誠、田村學造
要約

清酒やワインなどのアルコール飲料の香味において有機酸は重要である。著者らはSaccharomyces cerevisiaeにおけるフマラーゼ欠損がそのリンゴ酸、フマル酸およびコハク酸の生産性に与える影響についてFUM1遺伝子破壊株を用いて検討した。部位特異的なワンステップ遺伝子破壊法を用いて実験室株S.cerevisiae DBY746においてフマラーゼをコードする唯一の核遺伝子であるFUM1遺伝子を破壊し、分離したFUM1遺伝子破壊株のフマラーゼ活性が完全に欠損していることを確認した。炭素源としてグルコースを含むYPD液体培地中および清酒小仕込試験における有機酸生産性を調べたところ、FUM1遺伝子破壊株のリンゴ酸生産性は対照株の生産性と差違が見られなかったが、フマル酸の生産性は対照株に比べ飛躍的に上昇した。また、破壊株ではコハク酸の生産性が低下した。小仕込の発酵経過では破壊株と対照株との間に差が見られないことから、部位特異的な遺伝子破壊が清酒酵母の有機酸生産性を改変するのに有効であることが示唆された。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,80,355(1995)

14 Production of HM-1 Killer Toxin in Saccharomyces cerevisiae Transformed with the PDR4 Gene and δ-Sequence-Mediated Multi-Integration System

著者
T. Kimura, N. Kitamoto, Y. Iimura, and Y. Kito
木村哲哉、北本則行、飯村穣、鬼頭幸男
要約

Williopsis mrakii IFO 0895の分泌生産するキラー因子HM-1は熱安定性が高く、また広範なpHでも活性を維持することから醸造分野における発酵過程での野生酵母の汚染防止に効果的であると考えられる。そこでHM-1遺伝子をSaccharomyces cerevisiaeに導入しキラー化を試みた。先ず、本キラー因子に耐性の突然変異株を取得し、それを宿主とした。これにアルコールデヒドロゲナーゼI遺伝子のプロモーターの下流にHM-1遺伝子を連結したものを酵母染色体上に多数存在するトランスポゾンのδ配列を用いて多コピー導入した。この際、選択マーカーにはセルレニン耐性を用いた。ゲノムサザンの結果、3-4コピーが導入され、継代培養後のキラー性も安定していた。このキラーを用いて感受性株との共存培養実験を行ったところキラー株が感受性株の生育を阻止した。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,80,423(1995)

15 Molecular Cloning of CWP1: A Gene Encoding a Saccharomyces cerevisiae Cell Wall Protein Solubilized with Rarobacter faecitabidus Protease I

著者
H. Shimoi, Y. Iimura, and T. Obata
下飯仁、飯村穣、小幡孝之
要約

酵母溶解酵素Rarobacter faecitabidus protease IをSaccharomyces cerevisiaeの細胞壁に作用させると分子量4万の糖タンパク質が遊離してきた。我々は、このタンパク質のアミノ酸配列に基づいてその遺伝子、CWP1をクローニングした。CWP1の塩基配列は、11番染色体のYKL443というORFと同一であった。本遺伝子は、239アミノ酸、分子量24,267のセリンリッチなタンパク質をコードしていた。CWP1タンパク質は、N末端及びC末端の両方に疎水性の領域を持つことから、GPIアンカータンパク質として合成、分泌された後に、細胞壁へ組み込まれるものと考えられる。CWP1を破壊しても酵母の増殖には影響が見られないことから、本遺伝子は増殖に必須なものではないことが分かった。C末端疎水性領域を欠失した変異遺伝子を作成したところ、CWP1タンパク質が培地中に遊離してきたので、この部分が細胞壁への結合に重要であることが分かった。ホモロジー解析の結果、CWP1タンパク質は、新たな細胞壁タンパク質のファミリーを形成していることが示唆された。

掲載雑誌
J.Biochem.,118,302(1995)

16 Growth of Submerged Mycelia of Aspergillus kawachii in Solid-State Culture

著者
S. Sudo, S. Kobayashi, A. Kaneko, K. Sato, and T. Oba
須藤茂俊、小林精志、金子明裕、佐藤和夫、大場俊輝
要約

固体培養(麹)において焼酎白麹菌は耐酸性α-アミラーゼ(asAA)をほぼ増殖連動型で生産する。固体培養では基底菌糸とともに気中菌糸も生育する。ノーザン解析の結果asAAは気中菌糸ではあまり生産されず主に基底菌糸で生産されることから、基底菌糸の生育がasAA生産に重要であると考えた。白麹菌を寒天平板培養し寒天培地中の溶存酸素(DO)および基底菌糸密度分布を測定したところ両者間に強い相関が認められ、基底菌糸の生育がDOに支配されていることが分かった。寒天培養における寒天表面の基底菌糸密度は約0.4(mg/g-寒天)と推測した。一方、米を基質とした麹でも総じて基質中のDOは低いレベルにあったが、基底菌糸密度は5.4(mg/g-寒天)と寒天培養の表面密度の10倍以上となった。麹を水に浸したところ気泡の発生が認められ、製麹中に麹には空隙が形成されることが分かった。製麹した米の水分が少ない場合と多い場合では空隙の形成が少なく、空隙量が多く形成された麹では基底菌糸が良好に生育したことから、空隙を通して空気中の酸素が円滑に基底菌糸まで到達する効率的な酸素移動機構があると考えた。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,79,252(1995)

17 ニューラル・ネットワークによる清酒の官能評価データの解析

著者
佐藤和夫 、蓼沼誠
要約

バック・プロパゲーション法によるニューラル・ネットワークにより市販清酒のきき酒データから清酒カテゴリーの学習・認識を行い、ネットワークの中間層のユニット数や学習回数による誤差の変化を調ベ、収束条件を検討した。また、カテゴリー学習後のネットワークにより未学習データのカテゴリーの判別を行ったところ、判別分析法よリも精度よくカテゴリーの判別ができた。さらに学習後のネットワークの入力層・中間層・出力層の各層間の荷重やその積和を調べることにより、カテゴリーの評価基準やカテゴリーに特徴的な項目の抽出を行うことができた。これらの結果を利用し、清酒の品質設計やきき酒方法の検討に利用することができると思われた。

掲載雑誌
醸協、90,787(1995)

18 本格焼酎中のオクラトキシンの分析

著者
小林信也、伊藤清、浜田由紀雄、近藤洋大
要約

オクラトキシンは、1965年にAspergillus ochraceusから発見されたカビ毒で発ガン性を有することが報告されており、A.ochraceus以外にA.niger、A.awamori var.fumeus等に報告されている。これらの菌種は、焼酎や泡盛の麹の種菌として使用されていることから、焼酎中のオクラトキシンの分析を行った。分析は、焼酎を酸性下でクロロホルム抽出後、濃縮してHPLCにより行った。分析の結果、オクラトキシンの添加試験による回収率はppbオーダーにおいて約90%と高く、市販の米、麦、そば、さつまいもの焼酎及び泡盛のいずれにおいても検出されなかった。

掲載雑誌
醸試報、No.167,31(1995)

19 原料米からの無機燐酸の遊離に寄与する清酒麹の酵素

著者
岡部正人、桜田博克、清水弘人、中谷俊多美、三上重明、岩野君夫
要約

清酒醸造における原料米からの無機燐酸の遊離に関与する酵素について検討したところ、無機燐酸の遊離に対する清酒麹中の酵素の寄与率は98.7%と高く、酵素が必須であることが明らかとなった。そこで、清酒麹の酸性フォスファターゼ及びフィターゼの諸性質を調べて酵素活性の測定条件を設定し、清酒麹及び醸造用酵素剤の酸性フォスファターゼ及びフィターゼ活性を測定した。清酒麹には両活性が認められたが、醸造用酵素剤の活性は低かった。また、市販酵素剤を組み合わせて原料米からの無機燐酸の遊離について比較した結果、酸性フォスファターゼは清酒麹と同程度の無機燐酸を遊離したが、フィターゼによる遊離量はかなり少なかった。

掲載雑誌
醸協、91,203(1996)

20 Geotrichum属酵母M111株による麦焼酎蒸留廃液の固液分離と液部の微生物処理

著者
秋田修、鈴木修、高峯和則、瀬戸口真治、岩下雄二郎、家藤治幸、小幡孝之
要約

麦焼酎蒸留廃液の固液分離および脱水濾液の酵母および活性汚泥による処理法について検討した。セルロース性繊維成分に凝集性を示すGeotrichum sp.M111株を最終菌体濃度2×l07cells/ml以上、セルロース性濾過助剤のKCフロックを2%以上で併用することにより麦焼酎蒸留廃液の固液分離・脱水が可能となった。繊維成分を含むクエン酸発酵粕でも乾物換算1.3%以上の添加で効果があった。固液分離の処理温度は、60℃までは温度が高いほうが濾過性が良くなり70℃以上では濾過性が低下した。固液分離後の液部はM111株の培養用に有効利用できYPD培地と同等の増殖量が得られ、最終菌濃度2×108cells/mlに達した。固液分離後の廃液を、排水処理用酵母Hansenula anomala J45-0で処理した結果、BOD容積負荷量20g/l・dの条件で処理水BOD濃度を17,600mg/lから7,900mg/lまで減少できた。さらに、その処理液を酵母溶解菌Rarobacter faecitabidusで消化処理後に活性 汚泥で処理しBOD容積負荷0.4~0.6g/l・dの範囲でBOD80mg/l以下まで浄化できた。

掲載雑誌
生物工学、73,397(1995)

21 米焼酎蒸留廃液の生物処理

著者
鈴木修、秋田修、家藤治幸、下飯仁、飯村穣
要約

米焼酎蒸留廃液の固液分離および脱水濾液の酵母および活性汚泥による総合浄化処理法について検討し以下の結果が得られた。廃液に最終菌体濃度2×107cells/ml以上、セルロース性濾過助剤のKCフロックを2%添加し、ベルトプレス式脱水機で濾過速度33Kg/m・hで固液分離・脱水ができた。脱水後の濾液を排水処理用酵母Hansenula anomala J45-0で処理した結果、BOD容積負荷量20~40g/l・dの範囲でBODの約70%を除去できた。さらにその処理液を酵母溶解菌Rarobacter faecitabidusで消化処理し固形分の約40%を消化溶解後、水で5~10倍に希釈したものを活性汚泥で最終処理を連続試験で行った結果、BOD容積負荷0.4~1.0g/l・dの範囲でBOD30mg/l以下の処理水が得られた。

掲載雑誌
醸協、91,58(1996)

22 脱気水製造装置を用いた清酒の品質保持

著者
山本正純、木崎康造、伊田尚史、本田克久、荒巻功、小林信也、岡崎直人
要約

脱気水製造装置を用い、脱気水を清酒の割水として使用した場合の品質への効果、また、清酒そのものを脱気した場合の効果等について検討した。脱気水を割水として使用した場合、成分的な差は見られなかったが、官能試験では対照に比べ評価が良く、熟度も若く保てる傾向にあった。新酒を脱気した場合、火入れの有無にかかわらず着色度の増加が抑制され、官能試験では、対照に比べ品質が良い傾向にあった。火入れをしない場合には、3-D-Gの増加も低く抑えられる傾向にあった。新酒を脱気した場合、清酒中の溶存酸素濃度は、1ppm程度に低く保たれ、一方、未脱気の場合は貯蔵中に徐々に溶存酸素が減少し酸素が消費された。脱気清酒では酸素消費に関わる反応が抑制されているものと推定された。しかし、脱気した新酒を透明瓶に入れ日光に当てると日光臭が顕著に生成するため、生酒を透明瓶で出荷する場合は特に光を当てないようにすることが必要であると考えられた。

掲載雑誌
醸協、91,199(1996)

23 第33回洋酒・果実酒鑑評会出品酒の分析値

著者
梅田紀彦、橋爪克己、後藤奈美、山根善治、蓼沼誠
要約

第33回洋酒・果実酒鑑評会出品酒279点について鑑評結果を述べるとともに、果実酒類及びウィスキー類について分析値を示した。

掲載雑誌
醸研報、No.167,1(1995)

24 赤ワインのHCl指数に及ぼす温度の影響

著者
正木一成、後藤(山本)奈美、渡邊嘉也、樋野学、梅田紀彦
要約

国産赤ワインのHCl指数が高い原因を検討した。国産ブドウを使用した当所試験醸造ワイン、バルクワイン、濃縮マストから試験醸造したワインは、いずれも低いHCl指数しか示さず、ワインの原料にHCl指数を上げる要因は見出せなかった。一方、パスツリゼーション後、徐々に冷却を行った場合及び長期間高温貯蔵した場合は、HCl指数が有意に上昇した。しかし、かなり過酷な条件を設定したにも関わらず、国内産赤ワインに見られるような高いHCl指数を再現することができず、熱以外の要因の関与も推察された。

掲載雑誌
醸協、90,313(1995)

25 マロラクティック発酵スターターの添加効果

著者
後藤(山本)奈美、岸伸彦、橋爪克己、梅田紀彦
要約

海外で市販されているマロラクティック発酵(MLF)スターター用凍結乾燥Leuconostoc oenos DSM7005菌体の有効性を確認するため、シャルドネ及びカベルネ・ソービニヨンワインに添加した。供試ワインは、アルコール発酵終了後亜硫酸の添加を行わず、リンゴ酸濃度2.7g/L、pH3.6に調整し、菌体添加後15-17℃に47日間保持した。その結果、シャルドネでは添加区ではMLFが起こったが、無添加区では47日後もMLFが起こらず添加効果が明らかであった。カベルネ・ソービニヨンでは、無添加区でもMLFが進行したが添加区の方がMLF速度が速かった。また、MLF試験終了時の乳酸菌密度は、無添加区では不検出(シャルドネ)または103~104CFU/mlであったのに対し、添加区では107CFU/mlに達しており、スターターが増殖してMLFを起こしたことが示された。

掲載雑誌
醸研報、No.167,27(1995)

26 低アルコール清酒からの乳酸菌の分離・同定

著者
後藤(山本)奈美、角田朝子、福田 整、高宮義治、佐藤俊一、山岡 洋、岩下和裕、岸伸彦、戸塚昭、梅田紀彦
要約

火入れ前の原酒をアルコール分15度及び10度に加水希釈して培養し、火落ちした試料から乳酸菌を分離した。火落ちした原酒からはLactobacillus fructivoransのみが分離されたが、アルコール分15度の火落ち清酒からは、L.fructivorans、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus paracaseiの3種が、アルコール分10度の火落ち清酒からはこれらの他、Lactobacillus rhamnosusが分離された。また、火落ち市販酒等からはL.fructivorans、L.hilgardiiが、未火落ち生酒からはL.paracaseiが数多く分離された。

掲載雑誌
醸協、90,796(1995)

27 第18回本格焼酎鑑評会について

著者
大場俊輝、佐藤和夫、須藤茂俊、蓼沼 誠
要約

第18回本格焼酎鑑評会出品酒257点について鑑評結果、分析結果を述べるとともに酒質の傾向を考察した。

掲載雑誌
醸研報、No.167,17(1995)