平成8年度 研究成果

研究成果情報について

研究成果

1 Molecular Cloning and Determination of the Nucleotide Sequence of a Gene Encoding an Acid-Stable α-Amylase from Aspergillus kawachii

著者
A. Kaneko, S. Sudo, Y. Takayasu-Sakamoto, G. Tamura, T. Ishikawa, and T. Oba
金子明裕、須藤茂俊、坂本(高安)裕子、田村學造、石川雄章、大場俊輝
要約

白麹菌Aspergillus kawachii IFO4308から耐酸性α-アミラーゼ(asAA)のcDNAおよびゲノム遺伝子(asaA)をクローニングした。asAAは8カ所のイントロンを含み、cDNAのORFは1,920bpから成り、640個のアミノ酸をコードしていた。なお、シグナルペプチドのアミノ酸残基は21個であった。asaAのN末端から479番目までのアミノ酸配列は、Aspergillus nigerの酸性α-アミラーゼと97%のホモロジーがあった。それ以降のC末端に至る140個のアミノ酸配列は、その中にスレオニンとセリンに富むいわゆるTS領域を含み、白麹菌のasAAに待有なものであった。またasaAのcDNAにより形質転換された酵母は、asAAと同じ性質のpH安定域が2.0~6.5で、かつ生デンプン分解活性を有する耐酸性α-アミラーゼを生産、分泌した。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,81,292(1996)

2 Deletion analysis of promoter elements of the Aspergillus oryzae agdA gene encoding α-glucosidase

著者
T. Minetoki, Y. Nunokawa, K. Gomi, K. Kitamoto, C. Kumagai, and G. Tamura
峰時俊貴、布川弥太郎、五味勝也、北本勝ひこ、熊谷知栄子、田村學造
要約

麹菌Aspergillus oryzaeのα-グルコシダーゼ遺伝子(agdA)のプロモーター領域1.5kbをシークエンスし、他の麹菌のアミラーゼ遺伝子のプロモーター配列と比較した結果、region I、II、IIIと名付けた3ケ所の相同性が高い領域が見いだされた。これらの相同的な領域のうち、regionIIIの上流側半分を欠失させると、プロモーター活性が10%以下に減少すると同時にマルトース誘導能も失われ、ここに含まれている配列が高発現とマルトース誘導に関わる必須のエレメントであると考えられた。また、region IとIIIの後半部分を欠失させると1/4~1/2に活性が低下したがマルトース誘導能には変化がなかったことから、これらの領域はregionIIIの前半部分と共同的に働いて効率的な発現を行わせるのに必要な配列であろうと推定された。

掲載雑誌
Curr.Genet.,30,432(1996)

3 Retention of Saccharomyces cerevisiae cell wall proteins through a phosphodiester-linked β-1,3-/β-1,6-glucan heteropolymer

著者
J.C. Kapteyn, R.C. Montijn, E. Vink, J. de la Cruz, A. Llobell, J.E. Douwes, H. Shimoi, P.N. Lipke, and F.M.Klis
J.C.Kapteyn、R.C.Montijn、E.Vink、J.de la Cruz、A.Llobell、J.E.Douwes、下飯 仁、P.N.Lipke、F.M.Klis
要約

Cwp1pやアグルチニンなどの酵母細胞壁タンパク質は、細胞壁をβ-1,3-グルカナーゼまたはβ-1,6-グルカナーゼで処理することで遊離させることができる。このことは、これら2種類のグルカンが細胞壁タンパク質の細胞壁への固定化に関与していることを示している。実際にCwp1pやアグルチニンなどの酵母細胞壁タンパク質にβ-1,3-グルカン及びβ-1,6-グルカンが結合していることが抗体を用いた実験によって示された。さらに、β-1,3-グルカンは、β-1,6-グルカンを介してタンパク質に結合していることが示された。酵素的または化学的にホスホジエステル結合を分解することによって、Cwp1pのβ-1,6-グルカン部分は除去された。これらのデータはSaccharomyces cerevisiaeの細胞壁タンパク質がホスホジエステル結合でβ-1,3-/β-1,6-グルカンへテロポリマーに結合していることを示している。このポリマーはFleet and Mannersによって示されたアルカリ可溶性グルカンと同一であると考えられる。

掲載雑誌
Glycobiology,6,337(1996)

4 官能評価パネルによる清酒のカテゴリー評価と感性情報の想起および記憶の違いについて

著者
佐藤和夫、須藤茂俊、大場俊揮、蓼沼誠
要約

年齢、経験、男女の性など異なる3つのパネルグループにより清酒の官能評価を行い、それぞれのきき酒データを主成分分析法とニューラルネットワークを用いて解析した。また、清酒カテゴリーのきき当て試験によりきき酒による感性情報の想起と記憶に関する特性を調べた。各カテゴリーの特徴抽出とパネルグループ間の違いを調ベた結果、若年の女性ときき酒エキスパート間の評価の違いが最も大きかった。また、カテゴリーのきき当て試験では、カテゴリー判別に関する感性情報の蓄積は経験と年齢により違いが認められた。このように、きき酒による感性情報は、繰り返しによる学習効果は小さいが、一旦記憶された感性情報は短時間では忘却されにくいと結論できた。

掲載雑誌
醸協、91,745(1996)

5 清酒醪の並行複発酵に及ぼす酸性ホスファターゼ、フィターゼの影響

著者
清水弘人、中谷俊多美、岡部正人、三上重明、岩野君夫
要約

清酒醪の並行複発酵や醪中の酵母数に及ぼす酸性ホスファターゼ、フィターゼの影響を調べたところ、酸性ホスファターゼを添加した酵素剤仕込みでは、蒸米の溶解、糖化が促進され粕歩合が大きく低下し、発酵速度が速まり醪日数が短縮された。フィ夕一ゼを添加した酵素剤仕込みでは、蒸米の溶解が低下するため糖化が遅れ、ブドウ糖の供給が発酵速度を律速するという現象が観察された。

掲載雑誌
醸協、91,362(1996)

6 清酒醪の並行複発酵に及ぼすフィチン酸及びその関連化合物の影響

著者
中谷俊多美、岡部正人、清水弘人、三上重明、岩野君夫
要約

清酒醪の並行複発酵に及ぼすフィチン酸及びその関連化合物の影響を調べた。フィチン酸は0.5~5mMの濃度で、α-アミラーゼと蒸米タンパク質との無効吸着を解消し、液中α-アミラーゼ活性を高めることにより、蒸米の溶解が促進することが明らかとなった。仕込水にフィチン酸を添加した酵素剤仕込みでは蒸米の溶解が促進されるが、麹仕込みでは逆に蒸米の溶解が低下し、麹中のフィターゼの存在が影響していると推察した。

掲載雑誌
醸協、91,527(1996)

7 Raw-Starch-digesting and thermostable α-amylase from the Yeast Cryptococcus sp. S-2: Purification,Characterization,Cloning and Sequencing

著者
H. Iefuji, M. Chino, M. Kato, and Y. Iimura
家藤治幸、千野麻里子、加藤美好、飯村穣
要約

酵母Cryptococcus sp.S-2の生産分泌するデンプン分解酵素をα-サイクロデキストリン6Bカラムを使用する一段階の操作で精製した。この酵素はエンド型の分解様式を示し、アノマー型の糖を生成することよりα-アミラーゼ(EC.3.2.1.1)であることが判明した。このα-アミラ一ゼ(AMY-CS2)は分子量66kDa、等電点4.2であり、生デンプン分解性、生デンプン吸着性を有し、さらに耐熱性を有する酵素であった。本アミラーゼは611アミノ酸残基よりなり、496番目までのN末端領域はAspergillus oryzaeのα-アミラーゼ(タカアミラーゼ)の全領域と49.6%の相同性を有し、それ以降のC末端領域はAspergillus nigerのグルコアミラーゼGIなどいくつかのアミラーゼに存在し、生デンプン吸着に関与していると考えられている配列と相同性を有する部位であった。このC末端部位を欠失した変異アミラーゼは生デンプン吸着、分解活性を失ったのみならず、耐熱性も同時に失うことより、C末端部位はAMY-CS2の耐熱性にも関与している可能性が考えられた。

掲載雑誌
Biochemical J.,318,989(1996)

8 Acid Xylanase from Yeast Cryptococcus sp.S-2: Purification、Characterization、Cloning、and Sequencing

著者
H. Iefuji, M. Chino, M. Kato, and Y. Iimura
家藤治幸、千野麻里子、加藤美好、飯村穣
要約

酵母Cryptococcus sp.S-2より、エンドキシラナーゼ1,4-β-D-xylan xylanohydrolaseを分離、精製した。分子量は22,000、等電点は7.4であり、特徴的な性質として反応最適pHが2.0という低酸性下で強い活性をもつ酸性キシラナーゼであった。cDNA配列より、本キシラナーゼは209アミノ酸残基よりなり、推定されるアミノ酸配列はBacillus pumilus、Clostridium acetobutyricum、Trichoderma reeseiなどのファミリーGキシラナーゼと高い相同性を有していた。推定活性部位中にはユニークなシステイン残基が2ケ存在し、それが本キシラナーゼ好酸性の性質に何らかの関与をしている可能性が考えられた。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,60,1331(1996)

9 プロトプラスト融合法による排水処理用酵母の育種

著者
鈴木修、小針致、家藤治幸、秋田修
要約

固定床付き酵母法に使用する酵母を取得する目的で、凝集性酵母Hansenula anomala J224とデンプン分解能が高い酵母Hansenula fabianii J640との間でプロトプラスト融合法を用いて、デンプン分解能が高くかつ凝集性付着性の強い酵母の育種を試みた。得られた株5株のうち2株は染色体レベルで融合していることが、パルスフィールド電気泳動で確認された。グルコアミラーゼ活性は、融合株でH.fabianii J640の約60%程度、凝集性もH.anomala J224の約60%程度となり、両親株の平均的な性質を示した。また、凝集性に関与している細胞表層のタンパクをSDSポリアクリルアミド電気泳動で調べた結果、融合株5株にはJ224株と同様のタンパクのバンドが確認された。これらのなかNo.4株を選択し排水処理の評価を行ったところ、ひも状固定床ヘの付着性は良好で、デンプンを含む合成排水を用いた連続処理の結果では、BODを80%、TOCは70%の除去率が得られ、この株は排水処理用実用酵母として使用可能と思われた。

掲載雑誌
醸協、91,521(1996)

10 Cloning of the polyketide synthase gene atX from Aspergillus terreus and its identification as the 6-Methylsalicylic acid synthase gene by heterologous expression

著者
I. Fujii, Y. Ono, H. Tada, K. Gomi, Y. Ebizuka, and U. Sankawa
藤井勲、小野裕也、多田英倫、五味勝也、海老塚豊、三川潮
要約

Penicillium patulum の6-methylsalicylic acid synthase(MSAS)遺伝子をプローブとして、ゲオジン生産菌であるAspergillus terreusのMSASの相同遺伝子をクローニングした。atXと名付けたこの遺伝子は5.5kbのコーディング領域を有しそのN末近くに70bpの短いイントロンを持っており、190kDaの分子量をもつ1,800アミノ酸のタンパクをコードしていた。タンパクのアミノ酸配列はP.patulumのMSASと高い相同性を示し、Aspergillus nidulansのwAやPKS、Colletotrichum lagenariumのPKS1のβ-ketoacyl synthase領域と低い相同性を示した。ノーザン解析からは培養のどの時期からもatXの転写産物が検出されなかったが、本遺伝子を麹菌のα-アミラーゼ遺伝子のプロモーターの下流に連結し、A.nidulansに導入したところ、形質転換体が多量のMSAを生産したことから、本遺伝子がA.terreusのMSASをコードしていることが明らかになった

掲載雑誌
Mol.Gen.Genet.,253,1(1996)

11 Cloning,characterization and overexpression of a gene (pdiA) encoding protein disulfide isomerase of Aspergillus oryzae

著者
B.R.Lee, O. Yamada, K. Kitamoto, and K. Takahashi
李秉魯、山田修、北本勝ひこ、高橋康次郎
要約

PDIの活性中心付近のアミノ酸配列をもとにして合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして得た麹菌のPCR増幅断片をプローブに用いて遺伝子ライブラリーをスクリーニングし、麹菌のPDI遺伝子(pdiA)をクローニングした。pdiAは3つのイントロンを含み、515アミノ酸のタンパクをコードしており、活性中心モチーフを2ケ所持ち、C末瑞にはER retention signalが存在していた。pdiAのコーディング領域の上流にα-アミラーゼ遺伝子のプロモーターを連結し、麹菌に導入したところ、ミクロゾーム画分のPDI活性が約10倍上昇した。

掲載雑誌
J.Ferment.Bioeng.,82,538(1996)

12 Methoxypyrazine Content of Japanese Red Wines

著者
K. Hashizume, and N. Umeda
橋爪克己、梅田紀彦
要約

国産赤ワイン及び原料ブドウ中の3種類のメトキシアルキルピラジンを、2-メチル-3-n-プロピルピラジンを内部標準としてGC-EIMSにより定量した。カベルネ・ソービニヨン(CS)赤ワイン中のメトキシピラジンは、原料ブドウの果肉だけでなくその他の部位にも由来した。当所で醸造した最近20年間の全てのCS赤ワイン中に2-メトキシ-3-イソブチルピラジン(イソブチルMP)が存在した。CS原料ブドウ及び赤ワイン中のイソブチルMP量は、果実の熟度及び熟成期(9月)の気象条件に影響される可能性が示された。国産市販赤ワイン中のイソブチルMP量は、原料ブドウの品種により有意に異なっていた。

掲載雑誌
Biosci.Biotech.Biochem.,60,802(1996)

13 平成7年度ワイン試験醸造、マロラクティック・スターターの添加試験とシャルドネの樽発酵

著者
後藤(山本)奈美、吉村正裕、橋爪克己、岩野君夫、佐無田隆
要約

平成7年度ワイン試験醸造を行い、シャルドネの樽発酵及びステンレスタンク発酵による香味の特徴の違いを明らかにした。また、シャルドネ白ワイン及びカベルネ・ソービニヨン赤ワイン醸造において、凍結乾燥マロラクティック・スターターをアルコール発酵終了後に添加してマロラクティック発酵を誘導し、スターターの有効性を確認した。

掲載雑誌
醸研報、No168,1(1996)