磯谷副部門長が令和4年度日本醸造学会賞(奨励賞)を受賞しました

当研究所の醸造技術研究部門の磯谷副部門長が令和4年度日本醸造学会賞(奨励賞)を受賞し、令和4年度日本醸造学会大会(令和4年10月4日~11日、オンライン開催)において受賞講演を行いました。

受賞者

磯谷敦子

業績紹介

  

清酒を貯蔵すると、色や味、香りが変化する。貯蔵により変化した香りを専門家は「老香」とよぶ。老香は各種香気の複合香とされ、その本体は明確になっていなかった。受賞者は老香に寄与する成分とその生成機構の解明、さらにその制御技術の開発に取り組んだ。

老香の主要成分DMTS

GC-Olfactometryにより寄与成分を探索するとともに、閾値と濃度から計算される香気寄与度をもとに成分の絞り込みを行った。その結果、ソトロンに加えてジメチルトリスルフィド(DMTS)などが貯蔵した清酒の香りに寄与することが明らかになった。また、様々な市販清酒の分析の結果、貯蔵劣化臭としての「老香」にはDMTSが大きく寄与し、ソトロンは長期熟成酒の特徴である「熟成香」に寄与することが示唆された。さらに、DMTSの前駆体1,2-dihydroxy-5-(methylsulfinyl)pentan-3-one(DMTS-P1)を同定し、その生成に酵母のMDE1およびMRI1遺伝子が大きく関与することを明らかにした。

老香抑制技術の開発

上記の知見をもとに、日本盛株式会社と共同で、DMTS-P1の生成能が低下した酵母が育種された。本酵母を用いた清酒はDMTS-P1濃度が大きく低下し、貯蔵後のDMTSの生成が抑制され、官能的にも老香の低減が確認された。本酵母は、輸送中に品質劣化のリスクのある輸出清酒などの品質保持に特に有効と考えられ、現在、日本醸造協会から頒布されている。

また、九州大学と共同で、担持金ナノ粒子による老香の選択的除去技術の開発に取り組んだ。金ナノ粒子はカプロン酸エチルなどの香気成分は吸着せずDMTSを選択的に吸着除去するため、特に吟醸酒の老香除去に有効であることを示した。

参考文献

  1. 磯谷敦子, 清酒の熟成に関与する香気成分, 生物工学会誌, 89, 720-723 (2011)

  2. Wakabayashi K., Isogai A., Watanabe D., Fujita A., Sudo S. Involvement of methionine salvage pathway genes of Saccharomy cescerevisiae in the production of precursor compounds of dimethyl trisulfide (DMTS), JJ. Biosci. Bioeng., 116,475-479 (2013)

  3. 井上豊久・磯谷敦子・藤井力, 老香前駆体低生産酵母の育種およびそれを用いた清酒醸造, 醸造協会誌, 116, 608-617 (2021)

  4. 磯谷敦子・村山美乃・木村萌水・篠﨑貴旭・山本英治・藤井力・飯塚幸子・徳永信, 担持金ナノ粒子を用いた老香成分DMTS除去技術の実用化に向けた検討, 醸造協会誌, 114, 779-786 (2019)

(令和4年度日本醸造学会大会講演要旨集)

2022/11/1 掲載